故蝶の夢〜幼き日の出会い〜-2
*
このロジーという名の犬は、多輝の愛犬である。
多輝の実家である斉藤家はみんな犬が苦手で、何度多輝が犬を飼いたがっても、なかなか許しが得られなかった。
そんな小学生のある日。
私と多輝が下校している最中に、ロジーとの運命的(?)な出会いを果たした。
・・・それも、ベタすぎるシーンで。
「あ、犬捨てられてる!」
私にはどこにいるのかわからなかったが、多輝はすぐさま野原の中に捨ててあったダンボールに駆け寄った。
そしてダンボールから衰弱しきった犬を抱き上げると、必死に暖めようとしている。
「ほんとだぁ、よく見つけたねぇ!つぐ、全然気づかなかった!」
その時の私の第一人称が“つぐ”だったことは、小学生だったからということで許してもらいたい。恥ずかしいので・・・
「俺、こいつ家族にする!!」
多輝は少しも躊躇うことなく、唐突にそう言った。
「え〜でも、多輝のお父さんとお母さんがダメってゆうよー」
「大丈夫!絶対、大丈夫!!」
その後のことはよく知らない。
ただ、「こいつと一緒じゃなきゃご飯食べない!」みたいなことを言ったらしい。後から多輝のお母さんに聞いた話。
結局、多輝の熱意に負けて、ロジーは見事に斉藤家の仲間入りを果たした。
そして全ての世話を一人でこなす。
彼からすれば、小さな弟でもできたような気持ちだったのかもしれない。
休日に多輝が私を起こしに来て、一緒に散歩に行ったことも何度もあった。
どんなに外が寒くても、どんなに外が暑くても、楽しそうにしている多輝とロジーにとって、すごく満ち足りた時間だったのだろうと、今、思う。
今なら、どんなに仲良くしていたか、わかってしまうんだ。
多輝が死んだという知らせを受けてから私は、何を聞いても頭に残らないような状態だった。
でも、これだけは覚えている。
3日前のことだった・・・
「つぐみちゃん、ロジーもね、多輝と同じ所に行っちゃったのよ」
多輝のお母さんが、そう、教えてくれた。
「きっと、多輝がいなくなったことが分かっちゃたのね・・・。朝起きたら眠るように、冷たくなってた」
*
多輝はロジーが死んでしまっていることを知っているのだろうか。
知らせてもいいのだろうか。と、私は迷っていた。
尻尾を振って目を輝かせるロジー。そのロジーをよしよし、と撫でる多輝の後ろ姿。
こうして確かにここにいるのに
今はもう、いない二人。
見ていて、私は胸が苦しくなった。
目頭が熱くなる。
「お前はさ、本当に甘えん坊で、俺が寝てる時も構って欲しくて、朝っぱらから起こしに来てたんだよな。『散歩に行こう!』ってさ。」
多輝が早起きだったのはそのせいだったの・・・。
今更ながらにその事実を知る。