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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜
【悲恋 恋愛小説】

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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-1

悪魔が僕に囁く。
「お前の寿命をくれるなら、お前の一番望むことを叶えてやろう」と。
僕が悪魔に返答する。
「僕のせいで死んだ人を生き返らせてくれるなら、あなたが望むだけの命を差出しましょう」と。
悪魔が笑う。
僕は頷く。
それが、契約の成立だった。





もう、最近何をしていたかさえよく覚えていない。
現実を直視できないままに、お葬式、お通夜と過ぎて行って。
あいつは小さな骨になってお墓に入っていった。

私はベッドにうつ伏せになったまま、動けない。何もする気力がない。

「もう、立ち上がれないよ・・・多輝。」

名前を呼ぶと、また涙が溢れてきた。もう枯れるくらい泣いたのに。
あいつと写した写真が涙で霞んで見えなくなる。
私はその写真立てを思いっきり壁に向かって投げた。

パリン

割れる、粉々に。心が。

携帯のバイブが机の上で振動した。
名前を確認もせずに通話ボタンを押す。
「もしもし・・・」
「あ・・・つぐみ、また泣いてたんだね・・・」
声が上手く出せていなかったのかもしれない。軽く咳払いをする。
「実は今日、学校でみんな集まるんだけど、つぐみも来れたら・・・来てほしいんだ。」
聞いているのに、内容が頭に入ってこない。最近ずっとこんな調子だ。
「うん、大丈夫。行くから。うん、後で・・・」
そう言って電話を切った。

幼馴染で同じクラスだった斉藤多輝が、事故で亡くなったのは、5日前のことだった。
私は密かに多輝のことが好きで(あいつはこれっぽっちも気づいていなかった)、だけど2人の今までの関係を壊すのが怖くて、結局思いを伝えることが出来ず仕舞いで終わってしまった。

あいつは不思議な奴だった。

すごく明るくて、すごく意地悪で、私はよくあいつにいじられていた。
怒って拗ねる私に、最後はすごく優しい笑顔をくれるという、アメとムチを使い分けるような恐ろしい男。

あいつは特別だった。

誰にも分け隔てなく接し、誰にとっても特別な存在で。
だけど、あいつにとってはみんな、平等でしかない。

そんなあいつが交通事故で死んだと聞いた時は、クラス中が大パニックになり、みんな号泣した。
きっと、あいつの死は私だけでなく、皆の傷となって心に残るんだろう。

その時のわたしはそう思っていた。


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