故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-7
「え・・・多輝は?」
西崎さんは、俯いていた顔を上げた。
「あなたに、話があるの」
「え?」
その時気づいたのだが、私の声は普通に出せるようになっていた。
姿も元通りに見えるようになっている。
いつからなのかはわからないけど。
「多輝に告白、したの?」
私は恐る恐る尋ねる。
「したわ。けど、断られた。はっきりね。」
西崎さんは、なぜか意外にもすっきりしたような顔をしていた。
そして私の方を真っ直ぐに見る。
「転ばせたり見えないようにしたり・・・さっきは意地悪してごめん。私、ずっとあなたに嫉妬していたから、これくらい許してね」
西崎さんは舌をぺろっと出して笑った。
「嫉妬・・・?私に?」
「えぇ、ずっと斉藤くんの側にいられるあなたが羨ましかった。」
「それは・・・ただの幼馴染だから、あいつにとっては普通のことだもん。」
目を伏せる私を見て、彼女は淋しそうな表情をする。
「そう・・・。次は、あなたの番ね。」
「え・・・?」
突如、教室が砂のように崩れだした。
「何、これ!!西崎さん!!?」
西崎さんは微笑んでいる。
―私は先に戻るわ。自分が生きている世界に。
私は何もかける言葉が見つからない。西崎さんの姿も砂になっていく。
そんな中、私は確かに、彼女の最後の声を聞いた気がした。
―あなたも、頑張って・・・
*
「つぐみ」
はっと気づくと、そこは光の道の上だった。
「多輝!?」
さっき開けて入ったはずの、西崎さんの扉は消えている。
いつの間にかこの場所に戻ってきていたのだ。
「西崎さんに・・・会った?」
一瞬迷うように目を泳がせた後、多輝が答える。
「会ったよ。お別れ、してきた。」
その言葉に胸がズキンと軋む。
(お別れ・・・か)
「それよりお前こそなんの話してたんだよ?」
「へ・・・?」
私は予想外の質問にうろたえた。
「話って・・・何のこと?」
「西崎が、最後にお前に話しておきたいことがあるって言い出してさ、俺追い出されたんだよな」
そうだったんだ・・・。
西崎さんのあの言葉が蘇った。
―次は、あなたの番ね。
その意味を私はちゃんと理解している。
彼女が、どうしてそんなことを言ったのかわからないけれど・・・
私はちゃんと言えるのだろうか、彼女のように、勇気を振り絞って。
大事にしてきた、あの言葉を。