故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-6
ぷつっ、と声が途切れた。
私はただただ、呆然とそこに立っているしかできない。
あんな必死な西崎さんは・・・初めてだった。
華奢で、折れちゃいそうなほどか弱くて、女の子らしくて、可愛い。
普段の彼女のイメージからは想像できないくらいの強い意思を感じた。
最後のチャンス。
彼女は今までの想いを多輝に伝える気だ。
そう考えると、胸がじりじりする。
私は訳もわからず走り出していた。
*
「ここにもいないなー。どこ行ったんだろ、つぐみの奴。」
教室の中。
並んだ机、黒板。見慣れた風景。
多輝は眩しい物でも見るかのように目を細めた。
そして自分の机を、大切な物のようにそっと撫でる。
後ろで教室の扉が開く音がした。
「お前どこ行って・・・」
多輝はその言葉を途中で切った。
振り返ったその先にいたのは、別の人物。
「西崎・・・」
背が低く華奢で、さらさらのセミロングの髪を肩に垂らした、美少女がそこにいた。
「・・・斉藤くん」
多輝の姿を認めると、その少女は涙を浮かべ、走ってくる。
何度もつまずきながら、必死に。
そして、多輝に抱きついた。
「ずっと・・・斉藤君のことが好きだったの・・・。お願い、このまま、私と一緒にここにいて・・・」
多輝は一瞬、悲しい眼をした。
震えながら泣きじゃくる少女だけをその瞳に映す。
そして。
なだめるように抱きしめた。
*
(やだ、やだ、やだ!)
何が嫌なのか、わからないまま、走る。
こんなに教室遠かったっけ?
いつもは多輝と一緒に学校来てたから・・・短く感じたのかも。
まぁ、家が近所同士だったからね。
(そんなこと冷静に分析している場合じゃない!!)
何をこんなに焦って、急いでいるのか分からない。
万が一、西崎さんが多輝に告白したところで、多輝は、もうこの世にいない。
恋人同士には絶対、ならない。
焦る必要なんか、ない。
(本当に?)
このまま二人がこの世界にいることだってできる。二人だけの世界で永遠に・・・
(嫌だ、そんなの!!)
私はぶんぶんと首を振った。
(着いた・・・!)
見慣れた“2−6”の文字が見える。
お願い、お願い、お願い!!
半分開いている教室の扉を勢いよく開けた。
しかし・・・
そこには、西崎さんしかいなかった。
多輝の姿は・・・ない
私は面食らう。