故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-4
「誰かが悪魔と契約して、俺を生き返らせてくれって頼んだらしい。」
悪魔・・・?何言ってんの、こいつは。
「でもさ、死人を生き返らせるなんて出来っこないだろ?そこで悪魔は、『じゃあまだ生きている知り合いをこっちに引きずりこめばいいんじゃね?結果オーライ、あったまいー!』みたいな感じで、お前らをこっちの世界に連れて来たらしいんだよな」
何このテンション。
なんでそんな明るく話してるわけ?
こっちがどれほど辛かったか分かってんの?
私は話の内容云々よりも、こいつが死んでもいつも通りに喋ってることに苛立ち始めている。
「そんな話を信じろっていうの?私達まで死んだってことじゃない!」
「いや、まだ皆は眠っている状態。この状態が続けばヤバイけどな。それに・・・」
多輝は言葉を切ると、自分を指さした。
「ほら百聞は一軒にしかず!信じるしかないだろ?」
(“一見”だよ馬鹿!)
そう心の中で突っ込みながらも、“信じるしかない”ような気がしてきた。
死人が目の前にいるという事実は、もうなんていうか、納得するしかない。
「ここは一体なんなの?ひょっとして、あの世?」
「ん〜・・・何なんだろうな。悪魔が作りあげた空間、としか言いようがないけど。死人も、生きてる奴も閉じ込めた空間、なんだろうな。俺も成仏できない。」
なんとなく理解はできるけど、正直信じがたい。
「でも、みんなが無事目を覚ませば、今、ここで起きていることは“夢”で片付けられる。」
「夢?」
「あぁ、そして、全て忘れてしまう。」
「忘れる!?ここで多輝に会ったことも忘れちゃうの?」
「・・・うん。悪魔の存在が知られるとマズイらしい。呼び出して悪用することも出来るらしいからな。」
多輝はやけに詳しい。
死んだ人間というのは今まで知らなかったような、裏の摂理を知ってしまうものなのだろうか。
それとも当の本人である悪魔にでも聞いたとか?
「私の他に倒れた皆は?いないんだけど・・・」
「この道に沿って、赤い扉が並んでるだろ?あの中に一人ずつ、いる。」
確かに少し気になっていた、あの扉。でも扉の後ろ側は闇が広がるだけで、中に人がいるなんて、よくわからない。
一通りの説明を終えると、多輝は私の手を引っ張る。
「行くぞ!死ぬ前に、皆を起こしてやらないとな!」
戸惑いながらも、手をつなぐという行為に赤面する。
(こんな時に私ったら・・・馬鹿みたい!)
手から確かな、温もりを感じた。
相変わらず何考えているのかわからない、読めないその後ろ姿。
多輝は一番手前にある扉に手をかけて押し開ける。
カチリ。
思っていたより大きな音が鳴り響き、私の心臓が跳ねた。
開かれた扉から中を覗き込むと、意外にもそこは、さっきまで私がいた、見慣れた学校の廊下だった。
「え?」
どうやらこの扉は“どこでもドア”のように色々な所に繋がっているようである。
まぁ、もうそんなことくらいでは驚かない程、私の感覚は麻痺しているみたいだけど・・・