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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜
【悲恋 恋愛小説】

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故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-3




「おい、起きろって〜!ほんとお前はいっつも寝てばっかりだな。」
(あー・・・うるさいなぁ・・・)
優しく響く多輝の声。
普段は自分だって寝てばっかりなくせに、休日になると早起きして私を起こしにくる。
ほんと迷惑な奴!
「ゆっくり寝かしてよー・・・」

多輝は小さい頃から、私の家族とも仲良しで、インターホンも押さずに「ただいま〜!」なんて言って私の家まで上がりこみ、私の部屋にも勝手に入ってくる。
そんな多輝を私の家族は笑顔で迎える。
まるで、家族の一員みたいに。

「起きないなら、もう行くぞ」

多輝はあきらめたようにそう言い放った。
その言葉にはっとする。
多輝が行っちゃう・・・?

(やだ・・・!行かないでよ、もう私を置いて行かないで!!)

私はがばっと起き上がる。

すると。

目の前に多輝がいた。

「え・・・?」

それはもう、10年ぶりの再会のように、ただ懐かしさが込み上げてくる。
少し茶色がかった柔らかな髪の毛、そして端正な、でも今はにんまりと笑顔で崩れた多輝の顔。毎日のように見ていた、制服姿。

「多輝、どうして・・・?」

ただ、訳もわからずそう聞くしかできなかった。

(これは、夢?確かさっきまで教室にいたはずなのに・・・)

しかも私たちがいるのも異様な場所だ。
深い深い暗闇の中に浮かぶ、光る一本の道。私たちはその光る道の真ん中にいた。
その道の両脇には扉が等間隔に並べられている。

「ここ、何・・・?」

どこ?とは聞かなかった。なんとなく、普通とは異質な“物”だと本能的に悟っていたのかもしれない。
多輝は困惑する私の手を取り立ち上がらせた。そのまま手を引いて、どこかに向かおうとする。
「ほら、行くぞ。」
「・・・やっ」
私は多輝の手を払い除ける。
こんな幻を見ているのは、きっと私が狂ってしまったのだと思った。
「何言ってるのよ!あんたは・・・あんたは、もう・・・」
多輝のとぼけた表情が真剣になる。
その先の台詞が、言えない。
言ってしまったらこれが幻だとしても、多輝に会えなくなるような気がした。
作り物の幻影でも、ここにいるのなら・・・

多輝は私の様子を見て、ため息を吐く。

「確かに、俺は死んださ。だからって、そんなに気味悪がらなくてもよくない?傷つくんですけど・・・」

そう言うと、ポケットに手を突っ込んで拗ねるような仕草をする。
私は呆気にとられた。そう、いつもすぎる多輝だったから。
なんていうか・・・私が作った幻なら、ここまで吹っ切った発言はしないような・・・

「これは現実だぞ、つぐみ」

多輝が私の名前を呼ぶ時は、真面目な話をするとき。私は条件反射的に話に集中した。


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