故蝶の夢〜帰ってきたあいつ〜-2
*
「ごめん、遅くなった・・・。」
「ううん、いいんだ。来てくれただけでも。」
親友の沙希はそう言うと私をぎゅっと抱きしめてくれた。
私はその温もりに少しだけ泣きそうになったけど、皆に気をつかわせないように我慢した。
教室には大体、20名くらいが集まっていて、クラスメートだけじゃなく、他のクラスの人も何人かいたみたいだ。
「今日はね、みんな多輝のことをこのまま忘れることなんて出来っこないだろうから、皆が持ってる多輝の思い出を話して、私達だけのお葬式をしようってことになったんだ。」
「思い出・・・か。たくさんあるよ、話しきれないくらい。」
「そうだよね、つぐみが一番近い所にいたんだもんね。」
私は俯く。
「辛かったら、無理して話さなくてもいいんだからね?」
「うん。ありがとう、沙希。」
そして、皆が、少しずつ。多輝との思い出を話し始めた。
「あいつマジさ〜、一回も自分で教科書持ってきたことないんじゃね?」
「言えてる。いっつもうちのクラスに教科書借りに来ててさ、あきらかにあいつわざと忘れてるっしょ。」
たわいも無い会話を聞きながら、私もそれが、遠い過去のことであったように、振り返る。
辛いながらも、こうやって記憶は薄れていくのかもしれない。
そう思うと悲しかった。
「てかさ、あいつ西崎さんと付き合ってたんじゃないの?」
西崎さん、というのはクラスで一番可愛いと(男子に)言われている女の子だ。彼女はどうやらこの場には来ていない。
顔を合わせずに済んで、少しだけほっとする。
「まっさか〜!西崎さんはあいつのこと好きだったみたいだけど、あいつはほら、ねぇ・・・」
そう言うとみんなが一斉にわたしの方を見た。
不自然な間が生まれる。
(な、何・・・?)
「やめなよ。」
沙希がみんなを制止した。
「そんなこと言っていいのは、本人だけだよ。今更言っても・・・どうしようもない」
みんなの表情が曇る。私はなんとなく嫌な予感がした。
まさか・・・多輝は・・・
私は絶対にそれを認めてはいけないような気がした。
もし、それを認めたら、私はきっと・・・
(考えちゃだめ・・・!)
私がそう自分に言い聞かせた時だった。
クラスメートの一人が突如、眠るように倒れた。
「え?」
みんなは驚いてその男子を揺する。しかし一向に眼が覚める気配はない。
そして、また一人。また一人と床に倒れ、眠ってしまった。
一体何が起きているの・・・?
また一人。また一人。そして・・・
私もだんだん立っていられなくなってくる。
(何これ、怖い・・・!助けて、多輝・・・)
みんなと同じように倒れた私が感じたのは。
冷たい床の温度。
そして、あいつが私を呼ぶ声が、頭の中で蘇った・・・