ベルガルド〜闇の薔薇と解放〜-6
「何・・・これ・・・」
トゥーラが声を震わせた。
「ちっ、騎手が殺られたか。敵が上にいるぞ。」
ベルガルドは苦虫を噛み潰したような顔をして馬車の天井を見る。
「ベル!このままだと馬車が危ない!!」
ベルガルドは一瞬の判断の後、指示を出す。
「カイは馬車の操縦を!俺が上に登って馬鹿をぶっ殺してくる。お前らは・・・」
セシルとトゥーラを見る。
「自分の身を守れ」
「ベルガルド!!」
トゥーラが叫ぶのと同時にカイとベルガルドが行動に移した。馬車の扉を開け、上方に向かって跳びあがる。
中には二人だけが残された。
開け放たれた扉はキィキィ・・・と嫌な音を出して揺れ、セシルはすぐにそれを閉めた。
「心配要らないわ、トゥーラ様!私がついてるんだから!!」
セシルはこの緊迫した状況の中でも全く揺るがず、元気づけようとしている。女王護衛団の団長に任命されたのは、肉体的にも精神的にも特に秀でた強さを持っていたからである。
自分より遥かに華奢で、小さな少女を見上げた。
(私ったら情けないわね・・・)
トゥーラは恐怖を押さえ込み、周囲に細心の注意を払う。
ベルガルドと敵が馬車の上にいるのを感じ取れた。
(絶対足手まといになったりしない・・・!)
『―馬車、上部』
「あれれ〜こんなおチビちゃんが馬車に乗ってたの〜?可哀相なことしちゃったかなぁ。ぎゃははは!」
馬車の上には図体のでかい、派手な服を着た男が乗っていた。その手には、首の無いヒトの死体を携えている。恐らく騎手のものだろう。
男はベルガルドを見て下卑た笑いを浮かべている。
「確かに可哀相ではあるな。お前の末路を思うと。」
ベルガルドは静かな怒りをその赤い瞳に宿して、男を睨んだ。
「はぁ〜ん?何その態度。誰に向かって物言ってるか分かってる〜?」
「ふん、その言葉そのままお前に返してやるよ。下級魔族の分際で。」
ベルガルドは魔力を解放した。
ゴウッ!と風が唸るように吹き荒れ、馬車の周りの木々は台風にでも見舞われているかのように騒いでいる。その葉は下から上へ。上から下へ。
吹き荒れる風のままに変則的な動きを続けている。
ベルガルド自身は赤い光とも炎ともつかない強い輝きを放ち、黒いレザーのコートをバタバタとはためかせた。
「なっ!!?お前魔族か!?しかも上級・・・いやもっと上の・・・?」
「てめぇら、何の目的でこの馬車を狙った?」
「いや、その・・・上級魔族だとは知らず、すいませんっした!俺たちただヒト狩りをして遊んでただけで・・・」
「ヒト狩り、だと?」
ベルガルドは更に怒りを露にする。
「いや、だってウサギ狩りとかシカ狩りみたいなモンっすよ!強い奴が弱い物を狩るのは当然じゃないっすか!!」
男は平然と正当化し、言い訳をし続ける。
それを聞いて少年は、ふと、笑った。
「それもそうだ・・・理解できるさ」
その言葉を聞いて、男は安堵の表情を浮かべた。