ベルガルド〜闇の薔薇と解放〜-5
「精霊が封印されている・・・かな?初めて見る精霊だけど、腕輪が破壊された時に発動するタイプの魔術だね。気づかない程微弱だけどDRの香りがするでしょ?」
「精霊・・・」
トゥーラは困惑したようにカイの言葉を繰り返した。腕輪のにおいを嗅ぎ、深く頷く。
「トゥーラさん、うかつに腕輪を外そうとしない方がいいよ。何もしなければ安全だから。」
「えぇ・・・わかったわ。それにしても一体誰につけられたのかしら、こんな腕輪・・・」
本当に覚えがないらしく、えらく考えこんでしまった。
そんな様子を見てベルガルドが口を開く。
「これほど複雑な魔術を使える奴なら、いつでもお前を殺すこともできたはずだ。なのに、そうしなかったのは、本人にその気は無い、ということだろ?気にしなくてもいい」
ふふっ
トゥーラが笑った。
「何がおかしい。」
「だって・・・まさか励まされるとは思いませんでしたから。ベルガルド王に。」
「ふん!お前こそ、猫かぶってんのはバレバレなのに未だに敬語を使うとはな。」
トゥーラは限界まで眼を見開き、視線を泳がせて頬を赤くした。
「生意気な奴・・・っ!」
「ははーん、正体現したな。それに俺の方が年上だから生意気とは言わねぇぞ」
とても低レベルな喧嘩が始まってしまった。
カイとセシルは二人の今まで見たことの無い一面を見て呆然としている。
馬車はそんな内部のことなどお構いなく、一定の速度でガタゴトと進んで行く。
「嘘言わないでよ!あんたみたいなガキが私より年上なはずないでしょ!?」
「こう見えてお前の10倍生きてんだよ!ヒトを基本にした低俗な尺度で計るんじゃねぇ!」
「なんですって!!ヒトを馬鹿にしないでよ!わたしの10倍なんて副団長よりじじいじゃない!!」
「あいつと一緒にするんじゃねぇ!!!」
喧嘩がヒートアップする中
ほんの一瞬。
殺気を感じた。
馬車の外側から、内部に向けて。
「ベル、気づいた?」
「あぁ・・・厄介だな。今度こそ魔族だ。」
緊張感が支配し、車内はしんと静まり返る。
カイは、馬車内部を照らしていた蝋燭の炎を吹き消した。
トゥーラとセシルは外を見る。馬車は森の中を走っており、すでに辺りは真っ暗だ。民家の明かりも、街灯も見えず月だけが赤く輝いている。
人影もない。
「トゥーラ様危ないですから」
いつになく真剣にそう言うと、セシルはトゥーラを伏せさせ、その上を庇うように自分の体で守った。
「ベル、僕たちは魔力を封じてるから、相手からは同族だってことがわかってないんじゃないかな・・・解放してみる?」
ベルガルドはセシルとトゥーラをちらっと見る。
「いや、こんな密閉された空間で魔力を解放したら・・・」
(さっきと同じことになる・・・)
ぎゃああぁあぁぁ・・・っ
「!?」
外から悲鳴が聞こえた。
ダン、と馬車の上に何かが飛び乗る音がした後、窓の上部から赤い液体が流れてくる。