ベルガルド〜対峙〜-1
「どうしたら良いかの・・・」
甲冑を身に纏った初老の男性はうろうろと謁見の間の扉の前で歩き回っていた。
「今度は一体どうなさったんですか、副団長様」
呆れたような声でメアリーが尋ねる。
「研究所が全焼したと聞きましたが、このような所で油を売ってる場合でなはいでしょう?」
副団長はがっくりと肩を落とす。
「そのことなんじゃがの、中での出来事を知る目撃者がいるのじゃが・・・女王陛下の前でしか話さないと申しているのじゃ。しかし、どこの輩とも知れない者を無闇に女王陛下に会わせるわけにもいかないしの・・・どうしようかと・・・」
「あなたという人は全く優柔不断ですね、副団長様。」
「お前は相変わらずはっきりと物を言うわい・・・反論できんしの。」
副団長の姿を見かねて、メアリーは代わりにコンコンと、謁見の間の扉をノックした。
「入りなさい」
中からは落ち着き、澄んだ声が聞こえてくる。
「メアリー!?一体何をするんじゃ・・・」
そしてメアリーは副団長の背中をドン!と押した。
「大事なお客様でしょう?お通しして良いか、さっさと女王陛下に確認してきてくださいな!」
副団長は背中を押された勢いで、扉を開けて中に入って行ってしまった。床に敷かれた赤い絨毯が扉から真っ直ぐに伸びており、その先には女王が椅子に座って待ち受けている。
(ええい!こうなってしまっては仕方ない。)
「女王陛下!お耳に入れたいことがございましてこの護衛団副団長、馳せ参じました!」
『―アーレン城内 客間』
「ベル・・・なんか勢いでこんなことになっちゃったけど、大丈夫かな・・・なんの策も無しに女王に会っても・・・」
「問題ない。」
不安そうな顔をしている美しい青年をよそに、少年はやけにきっぱりと言い放った。
二人は女王護衛団の副団長を勤めているという男に連れて来られ、この客間で待たされている。何を手間取っているのか知らないが、すでに1時間は経とうとしていた。
「なんか時間が長く感じない?もう3時間くらい経ってるんじゃないかっていうさ!」
「まぁ落ち着けって、そんな姿をヒトの国の女王に見せたらみっともないぞ」
「それはそうだけど・・・ってなんでそんな冷静なの?」
「さっきの出来事について考えていたんだ。それにしても、アーレンに来たのはかなりの収穫になったと思わないか?」
「収穫?いや、おかしなことに巻き込まれた感が・・・」
ベルガルドはカイの返事を無視して続ける。
「各国で研究者が殺されているっつー事件をずっと調べてきたが、その犯人様が目の前に現れてくれたんだぞ?」
「あぁ!そういえばその事件のことでトゥーラ女王に会うんだったっけ・・・」
カイは今回の訪問の理由をすっかり忘れてしまっていたようだ。ベルガルドは呆れた様子でため息をついた。
「お前、何しに来たんだ?」
「ま・・・まぁ、気にしない気にしない!!」
カイはベルガルドの冷たい視線を逃れるように、わざとらしく「これなんだろー」などと言いながら、客間の中の小物を物色し始めた。
ベルガルドはもう一度深いため息をつく。