ベルガルド〜アーレン城内侵入〜-1
「ねぇ、ベル・・・今からでも遅くないからさ、やめようよ」
「お前だけ帰れ」
カイはため息をついた。
ベルガルドとカイ、二人が今いるのはアーレン国への国境である。
アーレンとレオーベンの間には、誰も所有することの許されない“絶対共有地”というものがあり、両国が決して隣接しないようになっている。
アーレン城に辿り着くためには、絶対共有地を抜けアーレンの国境を通過しなければならない。この国境に辿り着くまでに馬で2日ほどの時間を要した。
「ずいぶんとヒトが多いね、アーレンに入国するヒトがこんなにいるなんて。」
「ここは豊かな国らしいからな。他の国からも出稼ぎに来ているんだろ。」
カイは意外そうな顔でベルガルドを見た。
「詳しいね、調べたの?今までヒトのことなんて興味なさそうにしてたくせに。」
「あぁ、興味ないな。ただ、ラルフがしつこく話をしてくるだけだ」
ベルガルドはそう言うと、馬を歩かせて国境のゲートに続く列の最後尾に並んだ。カイもそれに続く。
「ラルフ・・・ってベルの弟じゃん!最近見かけないと思ったら、アーレン国に諜報活動に行ってたわけ!!?」
「スパイとか・・・あいつの場合そんなご立派なもんじゃねぇんだよ。」
「ベル、何怒ってんの?」
「怒ってねぇ!!あいつはヒトと仲良くなりたいとかぬかす大馬鹿野郎だ!」
「は・・・?ラルフがそんなことを?」
カイは目を丸くしてベルガルドを見つめる。
ベルガルドの赤い瞳が一瞬だけ困ったような表情を見せたが、すぐにいつもの強気の瞳に戻る。
「それ以上言うな。あいつだけは本気で理解できねぇよ」
その様子を見て、ふっ、とカイは吹き出した。
「ははっ!やっぱり兄弟だね。意味わかんない所なんてベルと一緒じゃん!」
ベルガルドは目に見えて不機嫌になった。
「てめぇ・・・そのおきれいな面ボコボコにしてやろうか?」
「冗談だって、失礼いたしましたベルガルド王」
カイはわざとらしく礼をする。その顔はさっきと変わらずにやけたままだ。
「ふん!」
赤髪の少年は気分を害してそっぽ向いた。
アーレン国の国境はぐるっと50m程の高い壁で不正侵入を防いでいる。そして所々に関所が設けられており、入国するには役人が管理しているゲートを通過しなければならない。このゲートでは、身分証の確認や持ち物のチェックを行っているが、これだけ厳重なのは魔族の侵入を阻止するためであろう。
「だいたいさ、魔族とヒトをどうやって見分けてるのかな?見た目は変わらないから判断できないと思うんだけど・・・」
「あぁ、それが最近ヒトの間で魔族についての研究を熱心に行っているらしくてな、魔族に通用する兵器も開発しているらしい。そんな物騒なモン作ってるくらいだから、魔族を判別する装置くらいあるのかもな。」
カイは顔をしかめた。
「兵器・・・?魔族を殺すための?」
赤髪の少年は質問には答えず、遠くを見るような目で国境の高い壁を見つめた。
「カイ、ゲートを通るまでは魔力を封じろ。バレたくなかったらな。」
「え?あ・・・うん。」
二人が話し終える頃には、自分たちの順番があと少しというところまで迫っていた。