飃の啼く…第16章-11
ああ…嫌だなあ。
何が嫌というわけでもない…たまに…たまにある、全てが嫌になってしまったと思える、あの瞬間がまた襲ってきただけのこと。
最近は良くある。このことは誰にも言ってはいない…言ったところで、どうにもならないし、誰かを傷つけてしまいそうだから。
その日の帰り道、チェーンソーのけたたましい唸り声がした。
「あ…。」
雑木林が、切り倒されている。
別段使い道も無い、ただの雑木林だった。こうなるのは時間の問題だと思っても居た。でも、ここを通るたびに、虫の声や、鳥の声が聞こえるのが好きだったのだ。ただそれだけの、整備もされていない汚く薄暗い雑木林が…。工事用のフェンスが取り除かれた暁には、面白くも無い砂利の敷かれた駐車場になるのだという。
ああ、嫌だ。
嫌だなあ。
家に帰ると、また飃は居なかった。一緒に食べれるか解らない夕飯の支度をする。味噌汁が出来上がり、野菜も肉も全て切られていためられるのを待っている。米も…とっくのとうに炊けてしまった。ゴールデンタイムの乱痴気騒ぎに、つられてはははと笑う。一人っきりで。一人っきりの部屋で。
ああ、嫌だ、嫌だ。
結局飃は、十一時を過ぎてから帰ってきた。
―何故、あ
「え?」
また、あの草むらに立っている。蛍は前より数を増しているような気がした。耳障りな羽音をさせて、まるで蠅か何かみたいに。
私は、声をもっとよく聞きたくて、枯れ木のほうへ歩いてゆく。今日は地面がぬかるんでいて、歩くたびにぐちゃぐちゃと不快な音がした。枯れ木まで、あともう少し…今日は蛍が多いから、木がよく見える木の表面はてらてら光って…それを理解した瞬間、夢が終わった。
今日は、部活がなかったので茜と一緒に帰ろうと声をかけた。
「ごめん。今日無理。」
「あ…わかった。」
なによ…まだ怒ってるわけ。そうならそうとはっきり言えばいいのよ。いつまでもぶすっと膨れてないで。
仕方ない。今日は一人で帰ろう。べつに、寂しくなんか無い。なのに、心がざわざわする。