旅立ちの日-9
「腕組もっか。恋人同士みたいに」
一巳は腕を差し出す。里香は一瞬、戸惑ったが、思い切って腕を組んできた。
一巳が笑顔を見せると、少し安心したのか彼女も笑顔を向ける。
様々な原色の灯りが辺りを染める道を2人は歩き出した。
〇〇道路を横断して右に折れてしばらく行くと、小さな焼き鳥屋がある。
藍色に白字で〈よしゑ〉と書かれたノレンをくぐると、6人掛けのカウンターに2人用のテーブルが2脚だけの小さな店。
ちょうどテーブルが空いていたので一巳達はそこに腰を落ち着ける。
店内を眺めると、カウンターに5人。テーブルは全て埋まっている。カウンターの向こうでは、50代後半くらいか、オバサン二人が忙しく働いていた。
「あのオバサン達は姉妹なんだ。ここはさ。あの2人でやってるのさ。以前、親戚のオジさんに連れて来てもらったんだけど」
そう話しているうちに、オバサンの1人が〈いらっしゃい。何にする?〉と聞いてきた。
一巳は里香に、
「アルコールは?」
「多分……時々、お父さんの晩酌を一口もらったりしてたから」
里香の返事から生ビールと焼き鳥を適当に注文する。
しばらくして生ビールと大皿に盛られた焼き鳥が運ばれてきた。豚バラ、鳥皮、ササ身、手羽先、じゃがバタ。
「じゃあ、乾杯しようか!」
お互いにビールジョッキを持つ。
「何に乾杯しようか?…えっと………そうだ!初めてのデートに」
ジョッキが重なり、口元へ運ばれる。喉が渇いていたのか、一巳はビールを美味いと感じた。
(頼まれたとはいえ、初めてのデートはやはり緊張するな)
里香も同様だったのだろう。ジョッキの半分近くが無くなっていた。
「里香ちゃん、お酒強いの?」
アルコールで少し緊張が解けたのか、彼女から笑みがこぼれる。
「喉カラカラで……呑んだら美味しくて……」
「オレもだよ。女性と呑むなんて初めてだから緊張しちゃって」
そう言って一巳は照れた表情でジョッキを傾ける。
それを聞いた里香は怪訝な表情で、
「ヘェ〜、一巳さんでも緊張するんですか?さっきも冷静に映画見てたじゃないですか」
里香はそう言うとジョッキを空にする。頬が赤く染まっている。
一巳も少し酔ったのか、饒舌になってきた。
「映画が好きだからかな。あのシーンをもう少しソフトに演出すれば、ましな作品になるのにって思って見てた」
2杯目のビールが運ばれてくる。