旅立ちの日-8
「いきます!」
「ヨシ!じゃコレ」
一巳は里香にヘルメットを渡した。以前、恵子が被っていた奴だ。
バイクのエンジンを掛けて跨る。美那が里香に何やら耳打ちしている。里香はそれを聞いてクスクスと笑っている。
「何?」
一巳は美那に聞いたが、〈内緒〉と言って教えない。
「さ、乗って!」
初めてバイクに乗るのか、里香は勝手がわからず、美那に教えてもらってやっと乗り込む。
背中越しに彼女の温もりや身体の感触が伝わる。一巳には〈久しぶり〉だ。
「それじゃ」
星が輝く準備を始める頃、一巳は里香と共に西へと向かった。
バイクは〇〇町に入った。左手には〇〇デパートが見える。一巳はこの手前の道を左に折れて、一軒の家の前にバイクを止めた。
里香をそこに降ろすと、
「知り合いの家なんだ。ここにバイクを置いて行くから」
そう言って2人は映画館のある方向へ歩き出す。
「今から映画を見に行くから」
里香は〈映画なら〉と、気にした様子も無かったが、一巳が連れて来たのは普通では無かった。
映画はフランス作品だった。図書館の館長を勤める40歳の女性と親子程歳の離れた19歳の青年とが出会い、愛し合い、最後は別れるというストーリーだ。
内容は普通なのだが、性描写がかなり過激だった。
特に暖炉の前では一糸まとわぬ姿でお互いを求め合う。外は雪が吹雪いているというコントラストが強烈だ。
絡み合いもボカシは入ってはいるがリアルな動きが目につく。
〈これをおとなし目に演習すれば一般映画で売れるのに〉と、一巳は思いながらチラッと里香を見た。
片手を握りしめて口元を押さえているが、目はしっかりと画面を追っていた。
映画を終えて外に出ると、辺りのネオンやディスプレイが鮮やかさを増していた。
「どうだった?里香ちゃん」
一巳は彼女を覗き込む。が、彼女は考え事でもしているように前を向いたままだ。
「里香ちゃん!」
再び呼ぶと、彼女は我に帰ったように、
「エッ、アッ、はい」
ちょっと刺激が強過ぎたようだ。
一巳はその事には触れずに、
「腹減っただろ?焼き鳥食べに行こうか」
「ハイ!」
一巳達は〇〇道路へと向かって南に歩いた。周りには背広姿や艶やかな姿の人々が大勢往来している。
彼女はそれがおっかないのか、一巳の腕にしがみつく。