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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Whirlwind-2

男はしがない労働者階級の市民だった。売春婦をしていた彼の母親は、昼間から男を家に連れ込んで『仕事』をする間、幼い彼に阿片を与えて、泣かないようにしていた。彼が働けるくらいの歳になると、否応無しに工場へ勤めに出された。周りにいるのは子供ばかり。7歳の少年は、産業革命が生み出した真っ黒な怪物の、歯車の隙間に潜って油をさしたり、そこにつまったものを取り除いたりした。こんな恐ろしい労働条件の中、一日何時間だって働かされる…それでも、命があるだけ幸運なのだ。

16歳になって、彼はこの地区の平均寿命よりは長生きできた。排水設備のないこんな町の、赤くにごった水を飲んで生活しながら、腸チフスの魔の手を逃れた。煤けた煙突の中で10時間以上も働きながら、窒息することも、転落することも無く彼は生き延びた。本名などあってないようなものだったから、彼は仲間に「ラッキー」と呼ばれるようになった。



ラッキーが、初めてその女を抱いたのは16歳の誕生日。と、いっても、誰が教えてくれたわけでもないので、誕生日と言っても形だけのものに過ぎないのだが。とにかく、必死にためた給料で、以前から密かに思いを寄せていた娼婦を買ったのだ。



「ふぅーん。」

慣れないことに顔を赤くしたり、青くしたりするラッキーを、彼女は品定めするように見た。

「あんたのこと、聞いてるよ。運が良いってんなら、あたしにもちょいと分けてくれよ。」

彼が良く行く酒場では、彼女はアリーンと呼ばれていた。こんな掃き溜めのような町に、間違えて捨てられた人形のような女だった。青い目は、縁取るおしろいが無くたって宝石のようにキラキラしていたし、頬は愛らしい赤に染まっていた。他の年増娼婦たちとは違って、彼女は本当に若く、綺麗だったのだ。



こんな夜に限って、月明かりが眩しかった。薄汚れた部屋の、薄汚れたマットレスが、ぎしぎしと悲鳴を上げる。手順を踏んでいく余裕は無かった。礼節も、そんなものはもともと持ち合わせちゃいない。ラッキーはただただ女を求め、女は求めに応じた。

「ああっ!イイ…っ!」

この体で何人の男を…そんな考えも浮かばないほど、彼女の体は綺麗だった。月明かりに浮かび上がる白い肢体は、まるでそのまま月が実体化したようで…肩にかかる赤毛が、冷たい明かりの中で燃えているかのように揺れた。

「…アリーン…アリーン…!」

名前を呼ばれた彼女は、ラッキーの髪をぎゅっとつかんで果てた。収縮が起こり、ラッキーもそれに続いた。



部屋を出て行く間際になって、アリーンがラッキーの服の袖を掴んで、囁いた。

「あんたなら…」

振り向いたラッキーの目の前にいたのは、最早、世慣れた冷たい目に世界を映す人形ではなかった。


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