ベルガルド〜敵国からの招待状〜-1
目が覚めた。
最初に目に入ったのは私を取り巻いている強い光だった。
「ま…ぶし…」
目が眩むほどの光を浴びていた私は、しばらくして自分の異変に気づいた。寒い。私は湖の中に仰向けに浮かんでいた。
「ここは…私何を…?」
湖の水は澄んでいて、不思議なことに七色の光を放っている。先程のまばゆい光は、どうやらこの湖自体のものらしい。目が慣れた私は辺りを見回し、岸へとあがった。
―ザバッ
七色の湖から出ると、黒いフリルが付いたワンピースと長い髪がぺったりと肌に張り付いた。吹いてくる風が冷たい。私は自分を抱きしめるような形で、草の生えた地面にしゃがみこんだ。
「!?」
その手を見て私は自分の体の違和感に気づいた。
跳ね上がるように湖を覗きこむ。そうすると湖の輝きが消えて、私の姿を映し出した。
しかし・・・そこにいたのは私ではなかった。
金色に輝く長い髪を垂らし、長い睫毛に縁取られたブルーの瞳、薔薇のように色づいた唇を持つ16歳くらいの美しい少女。
確かに、私と別人というわけではない。パーツは同じだ。例えるなら、未来を映す鏡を見ているような感覚だ。本来の私はもっと背が低いし、手足だってもっと小さい。大人になった・・・?そんな馬鹿なこと・・・
私は立ち上がって湖を囲む森を見渡した。
「そう、視点も高くなってる。見える景色が…違うわ。一体…」
自分の姿が急に成長してしまうまでの記憶が、すっぽり抜け落ちている。何をしていたんだっけ。
「お姉ちゃん…」
そうだ!お姉ちゃんが家からいなくなって…探さなくちゃ!そして事情を説明しないと…。
ガサッ
「!?」
私の心臓がはねた。
しかし、草陰から出てきた人物はどこにでもいるような老婆だった。茶色のスカートの上からエプロンをし、カゴをぶらさげ、髪の毛は真っ白だ。
「あら、あなた湖に落ちたの?風邪をひくわ」
老婆は微笑みながらそう言うと羽織っていたストールを私にかけてくれた。
「ありがとう…ございます」
「お嬢さんどこから来たの?お名前は?」
「デソン村から・・・。名前は…オラリカ。」
「あら、ずいぶん遠くまで来たのねぇ。さっきまで町ですごい騒動があったんだけど、あなたは大丈夫だった?」
「遠く…騒動…?」
胸がざわついた。
何かがおかしい、と感じる。
「一つ、変な質問をしてもいいでしょうか…?」
「なぁに?」
老婆は首をかしげて私の質問を待っている。
「あの、今年は何年ですか?」
「あら、どうしたの?今はT10年よ?」
私は頭が真っ白になった。
そして私はいきなり老婆の肩を掴み、責めるように質問を繰り返す。
「・・・っ!王は!今はサグリット王の時世ではないのですか!?S57年では!!?」
私の質問責めに老婆も驚いたようだ。目を見開いて私を凝視している。
「今のアーレン国はトゥーラ女王陛下が国を治めているわ。」
わたしはがっくりと膝をついた。なんていうことなの・・・?今の話が本当なら私は10年以上も記憶がないということになる。
一体何があったというの―?