ベルガルド〜敵国からの招待状〜-3
『一連の事件についてお話があります。
明後日貴国レオーベンに参りますので、日程の調整をお願いいしたく文をしたためました。
アーレン国女王トゥーラ』
便箋にはたった3行、用件だけが書かれていた。黒いインクで書かれた文字は、神経質なほどに整っていて、冷淡な人物のようなイメージを抱かせる。しばらく二人の間に沈黙の時間が流れた。
「ベル、一連の事件って今僕たちが調べている事件のこと?各国の研究者が殺されてるっていうさ…」
ベルは腕を組み、手紙を穴が開くほど見つめている。
「この女王バカか?敵陣の真っ只中に来るっていうことだぞ?」
「確かに…ヒトの女王が魔族の国に自ら出向くなんて正気じゃないね。生きて帰れると思ってるのかな?」
ベルガルドは持っていた手紙を一瞬にして燃やした。ライターも、何も使わずに空中で。
「このトゥーラっていう女王・・・就任してから9年は経ってるが、年齢も容姿もまだなんの情報も入ってきてねぇんだよな。」
「事件のことは気になるけど、ベル…」
「安心しろ、なめられるようなマネはしねぇよ。」
「どうするのさ?」
カイの質問に、ベルガルドは赤い目を輝かせる。
「こちらから出向くぞ。」
「は?」
赤い髪の少年は、ぽかんとしている美しい青年に向かって不敵な笑みを浮かべた。その瞳には、好奇心に満ち溢れた赤い炎が宿っている。
(危険だ。)
カイは、もうベルを止めることは出来ないだろうことを察知した。
ベルガルドはカイの横をすり抜けて、早速ドアの方へ歩き出す。カイの顔が引きつる。
(ヒトの国に行く羽目になるなんて冗談じゃない!!)
「ベル・・・まさか本気で!」
「行くぞ。『善は急げ』だ。」
「いやいや・・・。善って・・・。」
カイの言葉が届く前に、勢いよくドアを開けベルガルドは部屋を出て行ってしまった。その場には、デスクに積みあがった書類とカイだけが残される。
カイは笑顔を引きつらせて閉じたドアに目をやる。
「…要するに。ヒトの女王がどんなやつか、からかってやろうって気なわけね…。行くよ、行きますとも!」
白いローブを翻して、カイは早足で赤髪の少年の後を追いかけて行った。