難読語三兄妹恋愛暴露~長男Ver.~-1
「私と付き合って!」
某有名大学のキャンパス内にある白いベンチに二人の男女が座っている。そして、今まさに青春の1ページが開かれようとしていた。
パッと見た感じ、釣り合わない訳でもなくカップルに見えなくもないが、よ〜く見ると男の方は息が荒く、目はヒラヒラと泳ぎ、体中には冷や汗が吹き出していた。
「む、む、む…」
「む?」
「無理ッッ!!さいならッッ!!」
こうして開かれようとしていた青春の1ページは閉じられたままになった。
この情けないのがアタシ達の兄貴、宇奈月 玄人。
極度の女性恐怖症なのだ…。
「ギャッハハハハッッ!ひー、お腹痛い〜っ」
そして、その光景を影で盗み見し、爆笑している女の子が古谷 詩歌。
彼女はアタシ達兄妹の幼馴染みで、玄人とは小中高大と同じ学校だ。
詩歌は木の影から飛び出すと、ものすんごいスピードで逃走する玄人を追い掛けた。
「玄人、玄人!」
「ぅわっ、うた子。どっから湧いたんだよ!」
二人は走りながら会話を続ける。
「うるさい!湧いたって…告られることもままならない難読ヤローに虫扱いされたくないわ!」
ふんと詩歌は鼻で笑った。
「また見てたのか!?」
二人は一段抜かしで玄関の真ん前にある階段を登っていった。
「仕方ねぇだろ。体が受け付けねぇんだから!」
「可愛い子だったのに、惜しいっ」
二階分登るとそのまま直角に曲がり、広い廊下を駆け抜ける。
通り過ぎる人達がちらちらと見ていく。だけどその目は「何だこいつら。変なの」ではなく「出た、この二人!」というように興味津々に輝いていた。
「タイプじゃねぇ」
不機嫌そうに玄人は顔をしかめる。
「玄人にもタイプなんてあんの?言ってごらん」
そう言って詩歌は耳に手を当てた。
二人の目の前に大きな扉が見えてくる。
「少なくとも」
玄人がバカにしたように詩歌を見下ろした。
「お前じゃねぇ」
「ッなっ…!」
玄人は右手で、詩歌は左手で、その扉をバンッと開けた。
「出たな遅刻魔ども!」
…嗚呼、残念ながら授業は始まっていたらしい。