難読語三兄妹恋愛暴露~長男Ver.~-5
「分かった行ってやるッ!!行きゃあいんだろ!?合コンを制してやらぁッ!そんで見てろよ!?次会った時は俺のこの腕にッ…」
そう言って玄人は自分の左腕をバシッと叩いた。
「可愛い女の子の右腕が絡み付いてるからな!」
絡み付いてるって…。何か間違っている。
「いいか?楽しみにしてろよッッ!」
詩歌にそう言い残して玄人は図書室内を駆け抜けていった。廊下から
「あ、もしもし!俺だけど今からでも参加可能か!?そうかっ。すぐ行くから待ってろ!」
と聞こえてきた。
玄人の足音が完全に聞こえなくなると、詩歌は短くため息を付いた。
「これでいい…」
そう呟くと、詩歌はゆっくり立ち上がって図書室を出た。
「これでいい」と言ったくせに詩歌は何だか寂しそうで、すごく後悔しているようだった。
数時間後…。
ここにも後悔しているおバカさんがいた。
「はああぁぁぁ…」
玄人だ。
魂まで抜けるのではないかと心配になってしまうほど、深く長いため息だった。
それもそのはず。奴は合コンで撃沈したのだから!
張り切って出席したは良いものの、やはりワラワラと光に集う羽虫のような女の子の質問攻撃に勝つことが出来ず、いつも通りの腹痛と目眩に襲われ、一言も誰とも話さずに、トイレに立ったと思わせて、こっそり抜け出してきたのだった。
「はああぁぁぁ…」
ため息が暗闇に溶け込む。いや、玄人自身が闇に溶け込みかけているのかもしれない。
「あれ?」
闇を照らすような明るい声がした。
「玄人、可愛い女の子は?絡み付いてないじゃん」
詩歌だ。
「やかましいわ。ほっとけ…」
「まぁ行っただけでもすごい進歩だし、よくやったよくやった!」
詩歌はポンポンと玄人の肩を叩いた。
「…誰の」
「へ?」
玄人がぼそっと呟いた。
「誰のせいだと思ってんだよ…」
詩歌は叩いていた肩から手を離した。そして罰が悪そうに「ゴメン…」と呟いて無言になった。