女王候。-1
「もう飽きちゃった。アンタいらないから」
そう言ってドアノブに手をかけたあたしに彼は、あぁそう、バイバイ、とだけ言った。
そのままあたしは部屋を出た。
…そんな言葉はもう聞き飽きた。
そんな言葉を望んでいる訳じゃない。
――本当は。
「ごめん!今日も来てくんない!?」
「合コン?いーよ、全然!!」
今日もコンパの誘い。
なんでも、あたしがいると女子軍のレベルが上がるとか。
ちょっと優越感。
「これ、俺のメアドね」
「ん、サンキュー」
「あ、俺も!」
「いーよぉ」
今日は2人の男とメアド交換をした。
そのうちの1人の家に流れ込む。
「いーの?親とか心配しない?」
「あー…暫く友達ン家泊まるって言っといた」
「暫く?嬉しーねぇ」
「まぁね」
そんなモンだ。親ってのは。
彼の家に泊まり続けて1週間。
あたしはいつもの捨て台詞を吐く。
「ねぇ……なんかさ、楽しくないからもういぃわ」
「ふーん。次はダイスケんトコ?」
「あぁ、いーねそれ」
「だろ?アイツは結構いーヤツ。俺よりかは楽しいかもよ」
「そう。情報アリガト。んじゃあね」
そして部屋を後にする。
やっぱり、あたしを止めてくれる人はいないのか。
そんな事を考えながらダイスケ(合コンで出会ったもう一人の男)にメールを打つ。
"今から会わない?"
返事は来なかった。
翌日、同じ学部の男に声をかけられた。
当然あたしはいいよ、と答える。
「あ、でも今日バイトだからその後でいい?」
全然OK、と彼は答えて、携番とメアドを書いた紙を手渡した。
「お疲れ様でーす。お先失礼しまーす」
午前0時、バイト終了の時間。
「青木さん、ちょっと」
先輩の松田さんが、ちょいちょいっと手招きして呼び止めた。
出入口を指差してあたしに聞く。
「あれ、知り合い?」
「は?」
外を見ると、さっき携番の紙をくれた彼が、張り込んでいるかのように中を覗いていた。
「あぁ…すみません、すぐ連れてくんで…」
「いや、いーんだけど。青木さんの彼氏?」
「えっ?あ、まぁそんな感じですかね…」
「ふーん…」
何、何が言いたいの。
なんだかよくわからない、松田さんという人は。
確かに男前ではあるけど、女に興味無さそーなカンジ。
わかるのは、そこらの男と違って大人だという事。
「まぁ、とにかく先失礼しますね」
「あぁ、うん、お疲れ様」
「居酒屋でバイトしてるとは思わなかった」
あたしの隣に寝ている彼が言った。
「えぇ?じゃぁ何してると思ってたの?」
彼は少し考えてから
「…キャバ嬢とか」
と言った。
「よく言われる」
「やっぱり?青木さんキャバ顔だから」
「よく言われる。でも大学生キャバクラで働いてたら怒られない?」
「いや、わかんないけど」
「卒業したらいくらでも働いてやるわよ」
「ははっ。だったら俺がいくらでも稼がせてやるよ」
「待ってるよ」