女王候。-5
「松田さんっていくつ?」
「…いくつに見えんの?」
「え?…んー、25くらい?」
「そんなにいってねぇよ。23」
「えっ?まじ?あたしと3つしか違わないじゃん」
「そう」
23って事はもう社会人?でも店はバイトって言ってたし…。
「学生…ですよね?」
「大学4年。1浪してるから」
あらま。
「頭良さそうなのに」
「レベル高い学校なんだよ」
「へぇ」
会話が途切れて、あたしは立ち上がった。
そのままドアの方を向き、彼に背中を向けた。
「松田さん」
「どこ行くの」
「やっぱり松田さんは…あたしには合わない。あたしには綺麗すぎるよ…。ドロドロの世界にいるあたしには、松田さんは勿体ない…」
本心だった。本当にそう思った。
「…あたし…松田さんの事…好きだよ…。だけどね、ダメなの。あたしと一緒にいたら…。あたしと松田さんは住んでる世界が違うから。松田さんにあたしは似合わない…っ」
そこまで言うと、あたしはドアノブに触れてそれを押そうとした。
あたしは彼に期待している。
お願い、何か言って…。
「…待てよ。本気で言ってんの?」
あたしは動きを止める。
「住んでる世界が違ったっていーよ。そんな事知ってるよ。青木さんが遊んでる女だって事も。そんな事俺は全然気にしてないし。
それともアンタは、俺の事も今までの男と同じように見てるワケ?ここ何日かの事も無かったふうにすんの?」
「違う…っ」
今まで堪えていたモノが一気に破裂して、両目から涙が溢れた。
「…俺はアンタが好きで、アンタも俺が好きなんだろ?ならそれでいいじゃん。似合うとか似合わないなんてのは関係なし」
「…うん」
泣いた。大声で泣いた。
その間松田さんはずっとあたしを抱き締めていてくれた。
だけどあたしの涙腺は締まってくれなくて、涙は枯れる事を知らなくて、ずっと流れ続けた。
その状態のまま、あたしは初めて松田さんの背中に爪を立てる。
血が滲み出る程強く。
「…痛い…」
「ごめんなさい…」
「ねぇ、奈央って呼んでいい?」
「いいですよ。…じゃあ充って呼んでいいですか」
「いいよ」
この人はあたしの世界を変えてくれた。
あたしを止めてくれた。
あたしの期待を裏切らなかった。
あたしが一番望んでいる言葉をくれた。
――ありがとう。