Ethno nationalism〜長い夜〜-8
ー香港ー
チェックラップコップ国際空港。
ヨーロッパや中東と日本や韓国など極東アジアをつなぐ巨大な空港。
佐伯はトランジットのため、ここで1時間ほどの足止めを余儀なくされる。しばらく眠ったおかげか頭はスッキリしていた。
トランジェトの間、空港外に出る事は禁止されている。仕方なく彼は、新聞を買ってロビーで待つ事にした。
タイムズの香港版。世界最古の新聞。その昔、イギリス領だったからか、今でも発行されている。
政治、経済、娯楽、世界情勢と、ほとんどの情報は網羅しているタイムズだが、佐伯がもっとも気になる情報は載っていなかった。
(たしかベイルートにもタイムズの支局があったハズだが……)
イギリスは第1次大戦前の植民地時代から中東やアジアには強固な情報ネットワークを持っている。
佐伯はタイムズならと期待したがあてが外れた。しかし、そうなると問題だ。支局のあるタイムズが、あれだけの爆発騒ぎを記事にしないのだ。
(パレスチナやイランだけならまだしも、イギリスまでが何故隠すんだ……)
佐伯は言いようのない不安に包まれた。
と、その時、目の前でドサドサっと音がした。ふと目をやると、女性がフラついて倒れている。
佐伯はベンチから立ち上がると彼女を腕に抱えて起こした。
「大丈夫ですか?」
女性は青い顔で佐伯に答える。
「ごめんなさい。急にめまいがして……」
「そいつはいけないな。さっ、そこのベンチに座って」
佐伯は彼女を抱きかかえてベンチに座らせた。
「今、ドクターを呼んで来るから」
空港のメディカルセンターへむかおうとするのを彼女が止めた。
「…すぐに治まりますわ。時々起こるんです」
「しかし……」
「さっきよりも大分良くなりましたし…」
彼女の言う通り、倒れた時より生気が戻って見える。
「必要ならいつでも言って下さい」
佐伯はにこやかに話掛けると、彼女のとなりに座った。
あらためて彼女を見つめる。
プラチナブロンドの髪を胸元まで伸ばし、シャネルのレトロスーツを優雅に着こなしている。
整った鼻梁に厚目の唇も魅力的だが、何より南海のように淡いブルーの瞳が印象的だ。
一見して富裕育ちと分かる。
佐伯には彼女が一人旅をするようには見えなかった。