Ethno nationalism〜長い夜〜-5
「いつまでなんだ?」
「そうだな……3日でどうかな?」
藤田の返答に相川は苦い顔を浮かべ、
「チッ、それじゃ徹夜であたらにゃならんな」
「頼む……」
「この借りは高くつくぞ」
藤田は相川の悪態ににっこりと笑うと、
「ここの払いで十分だろ」
その言葉に驚きの表情をありありと見せる相川。だが、すぐに〈参った〉とでも言いたげな顔をすると、
「出来次第、連絡を入れる」
相川は先に店を出て行った。藤田はその姿を眺めながら、残ったシェリー酒を舐めていた。
ー夜中ー
タクシーが浄水通りで止まった。
そこから降りたのは藤田だった。彼のアパートは通りから奥まった場所にある。
閑静な住宅が並ぶこの辺りでアパート前までタクシーで乗りつけるのは気がひける。よって、藤田は通りで降りたのだ。
ノロノロと坂道を歩いて行く。
(実に平和だ……)
相川と別れた後、藤田は一人、繁華街に向かった。
中洲。
馴染みの店で、心のガードを降ろして思う存分、酒を呑んだ。
藤田は十分リラックスした状態でリフレッシュ出来た。
アパートに着いて自室に帰りついた時、藤田は靴を脱ぐのも忘れてベットに潜り込んだ。
心身共に癒された日だった。
ーベイルートー
ベイルート国際空港。佐伯を乗せたボーイング777は銀色の機体を輝かせて滑走路を飛び立った。
途中、香港をトランジットしての10時間あまりの旅。
機体が離陸飛行から水平飛行になり、機内のアラートランプが赤から青に変わる。佐伯はCA(キャビン・アテンダント)を呼び止める。
アラブ人のCA。色はあさ黒く体躯もガッチリしている。ヨーロッパやロシア、日本に比べて少々大味な印象を受けた。
「酒をもらいたいんだが」
「でしたらシャンパンなどいかがでしょう?」
「バイトの高い酒は無いのかい?」
佐伯の言葉にCAは困惑した表情を浮かべる。午前の便で強い酒を注文するのは珍しいからだ。
「ピョートルというウォッカがございますが?」
「スコッチかブランデーは無いのかい?」
「あいにく切らしておりまして……」
佐伯が苦笑いを浮かべる。この場合の〈切らしてます〉は、最初から置くつもりなど無いのと同義語だ。