Ethno nationalism〜長い夜〜-4
「3年ぶりか。相変わらず世界中を飛び廻ってるようだな」
2人はがっちりと握手をすると、席についた。
相川恭一。40歳。
県警の科学捜査班主任主査。藤田とは大学時代の同期。
2人の前に料理が運ばれてくる。
白身魚のカルパッチョ、ストロガノフ、タコのスパゲティーニ、ジェラート。それにワイン。
2人は時間を掛けて食事をしながら、語り合う。大学時代の事、お互いの家族の近況、仕事の事などを。
食事を終え、シェリー酒を傾けながら相川が言った。
「お前が県警を辞めて何年経った?」
相川の言葉に藤田は苦笑いを浮かべると、
「10年……かな」
「早いもんだな。突然辞めたかと思うと、当時内戦中だったチェチェニアに行っちまうんだから」
「元々むいて無かったんだよ……」
「あれから県警じゃあ……」
なおも続けようとする相川を、藤田は右手で制すると、
「その話は今度ゆっくり聞かせてもらうよ。それよりお前に頼みたい事があって此処に来たんだ」
藤田の言葉に今度は相川が苦笑いすると、〈そうだったな〉と言って黙ってしまった。
藤田は言葉を選んで語り始める。
「実はお前の読唇術でこれに映っている女が何を喋っているのか調べてもらいたいんだ」
藤田はそう言うとジャケットからハードケースにおさまったDVDを取り出すと、相川に手渡した。
「どういう経緯なんだ?」
相川はDVDを眺めながら藤田に訊いた。だが、藤田はその問いかけに言葉を濁した。
「ある地域の紛争……と、言うのでどうだろう?」
「なんだ、そりゃ」
相川の言葉に藤田は真剣な眼差しで答える。
「お前は知らない方が良いって事だ……」
「そんなにヤバいのか?」
自然と相川の声が小さくなる。それに対し、藤田はニヤッと笑うと、
「お前が深追いしなければ問題無いさ」
相川はしばし考えた。そして、藤田を再び見据えると、
「オレが調べる事によって、何が分かるんだ?」
その言葉に、藤田は胸を張って答えた。
「まやかしで無い、本当の世界さ……」
それを聞いた相川は、晴れやかな表情を見せると藤田に問いかける。