Ethno nationalism〜長い夜〜-3
「やけに早起きだな。こっちは夕方だよ」
佐伯の声が少し遠い。それにノイズも感じられたが、藤田は気にした様子も無く言葉を返す。
「今日、午前の便で日本に買付けに行くんですよ」
藤田は笑みを浮かべて答える。
「君は立派な貿易商だからな」
藤田の嫌味ったらしい言葉には答えずに、佐伯は訊いた。
「それより藤田さん。あの情報、間違い無かったんでしょう?」
「君は知らないのか?」
藤田は不思議に思った。情報屋の佐伯が自分の庭先で起きた事を知らないはずが無い。
だが、佐伯からは以外な答えが返ってきた。
「ベイルートでは何も……どうやらレバノン政府が報道管制を敷いたみたいで。他国からの放送もジャミングされて、これといったニュースが入って来ないんですよ……」
藤田は声を挙げて笑うと、
「そこを何とかするのが情報屋たる君の仕事だろう」
その言葉に佐伯の声のトーンは落ち込んで、
「今、出来る限り手を尽してるんですがねぇ……」
その声に少し可哀想に思ったか、藤田は弾んだ声で答えた。
「君の情報通りさ。アビルとイラン高官はシュラトンの前で殺害されたよ」
「本当ですか!」
「ああ……オレが全てをビデオに収めた」
藤田の言葉に今度は佐伯が声を弾ませて、
「ありがとうございます藤田さん!これで、また、他所を出し抜けますよ」
「なに、この前のお返しさ」
「日本でのビジネスを終えたら藤田さんに電話しますよ。今度は日本でゆっくりやりましょう!」
佐伯からの電話が切れた。
藤田は携帯をジャケットにしまうと、地下鉄の駅から右に歩き出した。
狭い路地の両サイドには、こ洒落たカフェや雑貨屋や古着屋が立ち並ぶ若者の街。
その一角にある5階立ての雑居ビルに藤田は入って行く。
3階の隠れ家のようなレストランは、夕方とあってまだ数組の客しか見えなかった。
藤田がウェイターに尋ねると、一番奥の個室に案内された。
中では、相手がアペリティブを舐めていた。
「久しぶりだな。相川」
藤田の言葉に、相川と呼ばれた男は席を立ち上がる。