Ethno nationalism〜長い夜〜-2
ー日本ー
福岡市浄水通りの閑静な住宅街。その一角に藤田の仮の棲家がある。
彼の実家は横浜なのだが、紛争地域が中東やアジア中心に起こっている。そのため、彼は仕事優先にここを選んだ。
空港への交通アクセスや、現地に到着するまでのタイム・ロスが短い事という理由からだ。
「ふうっ」
半月ぶりの我家。空気がよどんでいたためか、少々カビ臭い。藤田は荷物をリビングに置くと窓を開けて、バス・ルームへと向かった。
久しぶりの風呂。熱めのそれは心地良く感じられる。緊迫した状況下でこなした取材の緊張感が少しずつ解けていくようだ。
滴る水気をタオルで拭いながら、藤田は考え込んでいた。
(あの眼……)
絶世の美貌に氷のような瞳。あれほどのオペレーションを、眉ひとつ動かさずに実行する技量。
そして、ターゲット以外は殺さないという自信。
(間違い無く超一級のプロだ……)
藤田はいても立ってもいられなくなり、リビングに駆け込むと、荷物からビデオ・テープを取り出した。暗殺現場を撮ったビデオテープだ。
それを持って奥の部屋に進んでいく。4畳半ほどの狭い空間にビデオ編集機器やデスクトップのパソコンが並べてあった。
藤田はさっそくビデオをセットしてモニターに映し出す。
ベントレーのそばに倒れ込むアビル達。そこに近寄るマント姿の女。モニターに全体が映っていた。
(あれ……?)
藤田は妙な事に気づいた。女がアビルとイラン高官を殺害する間際、唇が動いているのだ。
あの時は興奮していたためか、まったく気づかなかった。
もう一度巻き戻して見る。今度は唇の動きを注意して。
(間違い無い……何かを喋っている)
藤田はパソコンにビデオ映像を取り込むと、女の顔だけをトリミングしてDVDに落とした。
それをジャケットの内ポケットにしまい込むと、部屋から出て行った。
ーベイルートー
佐伯栄治は朝早く目覚めた。夕べの酒が少々残っているのか、頭がぼーっとする。
しかし、今日はじっとしてる訳にはいかなかった。日本に帰るためだ。
表向き〈貿易商〉を生業とする佐伯としては、買付けを行なわねばならない。
特にここレバノンや中東で武器以外に人気なのが、日本製の家電品だ。佐伯は年に数回、買付けに帰国していた。
佐伯はシャワーを浴びると、バスローブ姿のまま冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、一気に喉に流し込む。
二日酔いには水やスポーツドリンクが良いのは分かっているが、どうにも飲む気がしない。
佐伯はビールで迎え酒と洒落込んだ。
少しづつアルコールが廻りだし、頭が軽くなってきた。佐伯はベットサイドに腰掛けると電話を掛けだした。
しばらくのコールの後、相手は出た。藤田 直だった。
「ああ、藤田さん?……佐伯ですが」
日本で受けている藤田は、驚きの表情で腕時計を見た。