Ethno nationalism〜長い夜〜-13
「すいません。良い苗が無くて……」
客も同じように笑って答える。
「いえ。また入荷したらお願いします」
客は店を後にした。その姿に従業員達は揃って頭を下げた。
先ほどのレジ係はまた店の奥に消えた。奥には階段があり、そこから2階に上がるようになっている。
ヘブロン商会のオフィス兼倉庫。レジ係の女性が入っていく。20畳ほどのフロアーには数脚のデスクに同じ数のパソコン、電話がある。
そのオフィスにはひとりの女性が事務仕事に勤んでいた。
カールさせた黒髪を肩まで伸ばし、細身の黒いパンツスーツに身を包んで、事務というより秘書といった印象だ。
「キャロル。ボスは?」
キャロルと呼ばれた女性は手を休めて振り返る。
バイオレットの瞳が印象的だ。
「ボスなら会合に出てるわ」
「会合?」
「エエ、商工会の会合。〈表向きは〉雑貨店の代表者だし」
レジ係の女性は困ったような顔でキャロルに訊いた。
「戻るのは?」
キャロルは首を横に振りつつ、
「今日は戻らないんじゃないかしら。会合の後、懇親会と称して一席設けてあるらしいから。レイチェル。何かあったの?」
「さっき、〈メッセンジャー〉が伝えに来たのよ」
キャロルが眉をひそめた。
「分かったわ。私が行ってくるから」
キャロルはレイチェルから伝言内容を聞き出すと、〈すぐ戻ってくるから留守お願い〉と事務所を後にした。
キャロルが目当ての商工会ビルに着いた時、ちょうど会合を終えたのか、エレベーターホールに面識のある顔が大勢集まっていた。
(あっ……)
その中に彼女のボス、アラン・マッケイの姿が見えた。
「ボスッ!」
キャロルがマッケイに近寄っていくと、彼は談笑していた。
「ああ、キャロル。どうしたんだい?」
「ここでは……」
彼女の言葉に、マッケイはエレベーターホールからかなり離れた公衆電話のそばに移動した。