Ethno nationalism〜長い夜〜-12
ー日本ー
羽田空港。JAL547便は、緩やかに高度をさげながら機首を上げていく。タッチダウン体制だ。
高度を下げて路面に触れる。〈ギュン〉という音とタイヤスモークを上げてタッチダウンした瞬間、バックファイアーでブレーキを掛ける。
機体はノロノロと滑走路を走りながらターミナルへと進んだ。
午前9時。半日に及ぶフライトをようやく終えた佐伯は、急激な眠気に襲われながら出口へと向かう。
北九州国際空港に到着したのは早朝だった。閑散としたロビーで入国手続きを済ませた佐伯は、一瞬、藤田の事が頭に浮かんだ。
彼が撮ったという暗殺現場を見てみたいと思ったからだ。
だが、あまりに唐突過ぎるし、何より時刻が早すぎる。いくら藤田でも、まだ夢の中だろう。
(ビジネスが先だな)
彼は羽田往きのカウンターへと急いだのだ。
今回の目的は東京、大阪、福岡での買い付けがメイン。
東京では食品や家電品なので問題無いのだが、大阪と福岡は違う。
(気を締めて掛からにゃ……)
佐伯はタクシーに乗り込むと、新宿方面へと向かった。
ー東京麹町ー
立ち並ぶビル群の中に、一際こじんまりとしたオフィスビル。その1階に〈ヘブロン商会〉なる雑貨店が有る。
取り扱っている物は中近東辺りの民芸品や小物、食料品だが、物珍しさもあってか、客足が途切れる事がない。
その店先に、ひとりの女性が現れた。制服にカーディガン、黒髪をヘアピンでまとめている。何処にでもいるような女性社員姿。彼女は店に入るなりレジ係の女性に話掛けた。
「すいません。こちらで〈ナツメヤシの苗〉を取り扱ってらっしゃいますか?」
レジ係の女性は、にこやかに答える。
「ああ、それでしたら奥にあります。こちらへどうぞ」
レジ係は他の従業員にレジを任せると、尋ねた女性を伴って店の奥へと入って行った。
他の客からすれば実に自然な行動のため、不思議とは思わない。
奥に入るなり、レジ係の顔つきが変わった。眼は鋭く、表情が無くなった。
「パトリアーク(長老)には私が伝える」
それを聞いた客の女性も、険しい顔で言った。
「〈ヤコブの弟子〉はターゲットと接触。その後、ペニンシュラ・ホテルに滞在。ターゲットはビジネスのために帰国との事」
「分かった。今のところオペレーションに変更は無い」
「分かりました」
2人はゆっくりと表のフロアーに歩いていく。
レジ係が再びにこやかに話掛ける。