Ethno nationalism〜長い夜〜-10
ー日本ー
相川と会ってから3日目の夜、本人から藤田に連絡が入った。
「分かったのか?」
開口一番。藤田は受話器の向こうの相川に訊いた。相川はその口調が勘に触ったのか、さも不機嫌そうに、
「お前、そんな言い方は無いだろう。こっちは必死に調べたってのに」
「すまない。やっと分かると思ったら興奮しちまって…」
藤田があっさり謝ったためか、相川は拍子抜けしたようにため息を吐くと、
「まあ、確かにこの内容を知れば興奮するかもな」
藤田ははやる心を抑えながら、
「どこで会う?」
相川は少し考えてから、
「あと1時間は仕事で動けない。それからお前のアパートでどうだ?」
「分かった。用意しておくよ」
藤田は受話器を元に戻すと、外出着に着替えてアパートを後にした。
「すまない。遅れちまって」
相川が藤田のアパートを訪れたのは午後10時を少し廻った頃だった。
「すまなかったな。無理言って」
藤田はそう言って彼を招き入れると、ひと組の応接セットしかないリビングに案内する。
相川はソファに腰を降ろすと、周りを見回す。
相変わらずの殺風景。テレビどころか、本棚ひとつ無い。相川が初めてここを訪れたのは福岡に赴任した3年前だが、その時と何ひとつ変わっていない。
「こんな物しかないが……」
藤田はワイルドターキーとグラスを持って来た。
さっきの電話から、すぐにでも内容を知りたいと思っているが、相川の機嫌を損ねては元も子も無い。
「おいっ、こんな時刻からターキーなんて呑んだら眠っちまうぞ」
「だったら泊まっていけばいいさ。オレはソファに寝るから」
藤田は2つのグラスにターキーを注ぎ込み、ひとつを相川に差し出した。
「何に乾杯する?」
グラスを持って相川が言った。
「そうだな。再開を祝って」
グラスが重なり合う。2人は半分ほどを一気に呑んだ。喉元を痺れるような刺激が通り抜け、腹の中が熱を持ってくる。
「ふぅー…」
相川がひと息吐いた。さすがに空きっ腹へのターキーは堪えたのだろう。
「ああ、食い物を持ってこないとな…」
藤田は思い出したようにリビングを立つと、キッチンから鉢盛りを持って来た。寿司盛りだった。