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ノスタルジィ
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ノスタルジィ-2

「豊原さん。どうかしたの?」

伸治の声に美鈴は、困り切った表情を向けると、

「それが…鉛筆を忘れて……」

伸治には彼女が俯むく意味が分かった。
美術の先生が生徒の誤りや忘れ物に対してヒステリックに反応すると知っていた。
特に美鈴のような大人しい性格の生徒には容赦ない。

美鈴の顔は、これから自分に起こる事を想像して蒼白に変わっている。目には涙さえ浮かべて。

〈何とかしてやりたい〉伸治はそう思った。

その時、ある考えが浮かんだ伸治は突然、席を立った。

「ちょっと出てくる!」

それだけ言うと教室を後にする。クラスメイトからは〈先生に怒られるぞ!〉と言われながら。

本鈴が鳴り止み、教室に美術教師が現れる。それから、わずかに遅れて伸治が駆け込んで来た。

伸治を見た教師は、予想通りの反応を示す。

「どこに行ってたの!説明なさい。佐野君」

伸治は荒い呼吸のまま、教師に深々と頭を下げる。

「急に腹を下して……すいません」

生理現象では致しかたない。まだ何かを言いたげな表情を示しながら、教師は伸治を席に戻るように言った。

「すいませんでした」

再び、頭を下げて机に戻りながら、伸治は美鈴の机にそっと手を置いた。

(えっ!これ……)

彼女の机には、使い古しの2Bの鉛筆が置かれていた。

(佐野君……)

美鈴は優しさに対する嬉しさと、怒られないで済むという安堵感の入り混じった表情を伸治に向ける。
美鈴を見た伸治は、〈いいから、いいから〉と言いたげな顔をむけた。

以来、2人は急速に距離を詰めていった。




ー夜ー

一家団らんの席で母親が言った。目の前には買ってきた2Bの鉛筆が置かれている。

「ハイこれ。も〜っ、今度から文具は自分で買いなさいよ」

母親は〈いい加減にしてよ〉と言いたげな口調で娘に言った。

「は〜い」

娘は嬉し気に新しい鉛筆を受け取った。

「明日はクロッキーでも描くのか?」

父親の突然の問いかけに娘は驚きの表情で、

「わ、分かるの?…お父さん」

父親は微笑みを浮かべて、

「まあ、それくらいわな……」

その時、母親は目を細めて父親に訊いた。

「あの時は本当に助かったわ。ところで、どこから調達したの?」

母親、美鈴のその言葉に父親の伸治は答える。


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