Authorization Lover-VOLUME5--2
一番高くなった時、雛菊はブランコから飛び降りた。しかしいつもは上手く着地できるのに、今日は足がもつれる。
地面に雛菊は叩きつけられた。
包帯の上から血が滲む。傷口が開いてしまったらしい。立ち上がろうとしたが…やめた。
ゴロンと転がって目を閉じる。
「何しとるん?」
頭の上から声が降ってきた。びっくりして目を開ける。
華奢な少年が、雛菊を見下ろしていた。雛菊はまた目を閉じて、囁くように答える。
「…もう疲れたの。」
そう、色んな事が短期間に起って頭がパンクしそうだ。このまま冷たい土の上にいたい。
「自分、名前なんて言うん?」
少年は雛菊の様子に気にせず、マイペースに問う。
「…く」
「ん?」
少年は耳を寄せる。
「杉本雛菊」
「雛菊か。僕は市井銀言うんや。よろしゅうな。」
雛菊はフッと笑う。
「変な名前…」
「やっと笑ったな」
雛菊は怪訝そうな顔をする。銀は嬉しそうに微笑んで雛菊の腕を掴んで上に引っ張った。
スッと雛菊は銀に支えられながら向かい合い、立つ。
銀は雛菊の手を取って、にっこり笑った。
「…帰ろか」
「…あたしは帰るところなんてないの」
雛菊は、急に夢が覚めたかのような、冷たい声で答えた。ギュッと手に力を込める。
「行くとこ無いちゅーならウチくるか?」
雛菊は顔を上げる。そこには満面の笑みがあった。銀の顔から考えを読み取ろうとするが分からない。
「え…」
「しゃーから行くとこ無いんやろ?ウチに来いや。」
「本気?」
「当たり前や。さ、行くで。」
「えっ…えぇっ?」
銀は雛菊の手を引っ張って、ずんずん歩き出した。