Authorization Lover-VOLUME4--1
金原商事の染岸草介は、一息つこうと珈琲を飲みながら肩の力を抜きかけた。
が、それは許されなかった。
血相を変えた東山が走ってきて、熱い息を耳に吹きかけたからだ。
気持悪い奴め。妙な趣味があるのか。染岸は露骨に不快感を顔に出して、身を反らせて、東山の唇から逃れようとした。
なおも、熱い息は迫ってきて、押し迫るようになり、それは言葉になった。
「銀は私達を裏切る気かもしれません。」
体をよじって逃げていた染岸は、意味が解るまで数秒の空白があった。
心臓が高鳴る。
染岸は東山の顔を右手で押し返すと、改めて聞き返した。
「銀が我々を裏切るというのか?」
「は、はい。」
染岸は目を細めて
「はい、じゃ分からないだろう。詳細を説明しろ。」
「実は…」
腫れぼったい唇をキクラゲのようにブルブル震わせて話だした。
「ハックシュン!」
「きたねぇなぁ。風邪かよ?」
谷川は露骨に顔をしかめて銀を見る。
銀はニヤッと笑ってハンカチで口を拭った。
「僕モテるからなぁ。誰かさんが噂しとるんちゃうの?」
「あっそ。」
呆れたような口調である。
谷川はもうすでに銀と二人でいる事に後悔していた。
時を遡る事一時間前──
社長室に谷川は、社長の榊原一子に呼び出された。
そこには、社長の他に京本春也、木原十夜、更科堅、市井銀、各重役がソファーに腰かけていた。
一子が口を開く。
「どうじゃ、回ってみてうちの会社の雰囲気は?」
「いいですよ。」
谷川は正直に答えた。ただ、何故ここに重役の役職についているメンツが揃っているのかは分からず、居心地が悪い。
一子は満足そうに頷いて笑った。