仮面-1
市立図書館。
伊藤海人は目の前で起きている出来事に、釘付けになっていた。
スカートから伸びる白い脚は左右に開かれ、その中心にある淡い色のパンティを白く細い指が、こすりあげている。
指が巧みな動きでリズムを刻むうちに、淡い色の中心は液体が滲み出し、濃い色が現れてきた。
(…あ…あ……)
海人は、その光景に吸い寄せられそうな衝動を受けながらも、何とか理性が思い留まる。
彼はその先にある消しゴムを拾うと、席に戻った。
(こいつ……)
海人はその対面を上目遣いに見た。クラス・メイトの岡野薫は海人の視線に、ニヤリと笑みを浮かべる。
話は30分前に遡る。
海人は図書館に勉強に来ていた。
高校3年生。
あとわずかで大学受験を迎える。気持ちだけ先走りそうなこの時期に、自宅ではどうも落ち着か無いと、ここに来たのだ。
普段はイヤな静寂が心地よく感じられ、集中しだした矢先、海人の頭を何かが叩いた。
慌てて振り返る。
そこには、岡野薫がにこやかな顔で立っていた。
ショートのワンピースに重ね着したシャツ。わずかに見えるヒザ上のスカート。首元までのショート・カットと相まって、とても健康的に見える。
ただ、それだけだ。彼女が生徒会の一員である事や、テストでも常にトップ10にいる事。なにより普段、メガネの奥に見える冷ややかな視線が、海人から彼女を遠ざけていた。
「こんにちは、海人」
「あ。ああ……」
あやふやな返事をする海人。対して薫は気にした様子も無く彼の対面に座った。
(何しにきやがったんだ。おまけにオレの前に座って……)
海人は落ち着いた雰囲気を妨げられた事に、気分を害していた。そんな思いから、つい、手元が狂って消しゴムを床下に落としたのだった。
目の前が正視出来ない海人。薫のおかげで、彼の股間は熱くなっていた。
薫はしばらくすると席を立ち、荷物をまとめだす。それをチラリと見た海人は何故かホッとしていた。
(これで集中出来る……)
薫がすれ違う。と、彼女は海人の耳元で囁いた。
「来週もこの時刻に来るのよ……」
「お、オイッ!」
振り返り薫に声を掛ける海人。
その瞬間、蔑すんだ眼が彼に集中する。
薫は、そ知らぬ顔をして出口へと向かった。