恋愛模様〜ラブレボ〜-9
五良は驚く。奈都が先に、自分の名を告げた。
「僕の名を?なぜ…」
奈都は目を伏せ、
「雨の日、送ってもらった時にね、烏丸さんの話題が出たでしょう。その時、ゴローさんが言った言葉を聞いて」
「僕が言った言葉…か。優秀なだけで、機械のような存在…。」
五良は、その言葉をもう一度繰り返して、胸が痛んだ。
「ほら、その悲しい顔…。あの時も、同じ表情だったんですよ。ゴローさん…。他人の話をしてるのに、まるで自分自身を否定しているようだった…。ゴローさん自身が、傷ついていたから…。だから…もしかしたら、ゴローさんが烏丸さん本人なのかなって。」
美希達曰く、『本能で生きる女』鋭い奈都である。
「実際、僕は機械のようなんだ。特に最近は、何も感じない…。心が無いみたいだ。」
奈都は、微笑んで五良の頬に触れた。
「機械なんかじゃ、ないですよ…。五良さんは暖かい心を持っています。心があるからこそ、涙が流れるんですから…」
「え…?」
五良は、知らずしらずにまた泣いていた。
奈都が、涙を指でぬぐい、口に含む。
「しょっぱい…。ね、ちゃんと生きてる証拠…きゃ!」
五良は、思わず奈都を抱き締めていた。
「五良さん…!苦し…」
「…っく。ごめん、暫くこうしていて。」
五良は、溢れる涙を止めることなく、奈都の暖かさを感じていた。
「それに…あんなに熱くて激しいエッチは、人間以外、無理です。」
奈都は、背伸びをして五良の背中に腕を回した。
「…激しかった?」
五良は、奈都の肩に顔を埋めたまま、尋ねる。
「すっごく激しくて、気持ち良かった…。また、シたいです。」
と、耳を真っ赤にしながら奈都。
「次は、もっと激しくするよ。歯止めきかないかも…。いいか?」
「…はい。楽しみにしてます…ね。」
二人はクスクス笑う。
「奈都。好きだよ。大好きだ。出逢えて嬉しい」
心からそう想う。
「ん、私もです。五良さん。」
二人は、お互いをずっと抱き締めていた…。
翌日ー。生徒総会。
「では、会長からの連絡事項です。」
秋良が、五良を壇上に促す。
きゃあ、と一部の女子生徒から黄色い声が、上がる。
「会長の、烏丸です。来週行われる新入生歓迎式典の概要を、発表しておきます…。」
「生徒…会長だったんだあ。図書委員じゃ、なかったのね…。まだまだ知らない事、多いなあ」
奈都は何百人の生徒に混じって、ひとり呟いた。
「ね、あの人が烏丸さんよ!カッコいいよねぇ〜。本当、全部完璧!」
後ろから美希が小声で話しかけてくる。
「そうだね…。」
確かに、舞台上から颯爽と発言する姿は、カッコいいと思う。
でも…。
あの優しさ、自分自身に苦しむ弱さに惹かれた。
「あぁ〜。やっぱり、あんな彼氏欲しいわ。」
美希達に、どう打ち明けようか…奈都は考える。大切な親友だ。いつか、素直に伝えたい。
〈こないだ烏丸さんは興味ないって言っちゃったしなあ…。ビックリするよね…〉
今の今まで、奈都は生徒会長でもある、学園の王子の顔すら知らなかったのだ。
そんな奈都の初カレが、学園の王子様だとは…。誰が思うだろう。
〈昨日の事は、夢を見てるみたいだったな〉
まだ奈都自身、信じられない。けれど、チクン…。
〈痛っ…。〉
愛し合った昨日の痛みが、子宮で甘く疼く…。
〈現実だ。夢なんかじゃない…〉
奈都はある日突然恋を知り、女の悦びを知った。
〈人生って何が起こるか判らない。だから生きるって素晴らしいんだわ…〉
若年寄ぶりは変わっていない。
「…入生歓迎式典の成功は、皆さん生徒全員の協力で成り立ちます。宜しく。私からは、以上。」
五良は、会釈をする。それを見つめる奈都。
バチッと五良と瞳が合った。
〈あっ…〉
奈都の鼓動が速くなる。
瞳が合ったほんの一瞬、五良はふわりとはにかんでウインクをする。
〈嘘…。こんなたくさんの生徒がいるのに。私を見つけてくれたの…。〉
カカーと、体温があがり奈都は五良のウインクに、ノックアウトされてしまった。