恋愛模様〜ラブレボ〜-4
ハアハア…。息、切れ切れ。話が明後日の方に流れている。
クス…。どちらともなく笑い出す。
「何も一緒に濡れなくても、いいですよね…。」
「だね。今日は、一緒に濡れないで帰りましょうか。風邪を引かさないように、駅までお送りさせて頂きますよ。」
五良はフワリと微笑む、本日一番のベストスマイル。
これには、奈都もドッキリしてしまった。
「そ…それでは、お言葉に甘えます。」
シトシト。小降りだが雨は降り続いていた。
この天候に感謝しながら、五良は奈都と相合い傘で歩いていた。密着度は高い。
「へぇ。ご両親が日本史の教師なのか。すごいな。」
「そうなんです。だから小さい頃からよく、京都や奈良に資料研究で連れて行かれてたから、特に奈良が好きになっちゃって…。」
「奈良県は、京都と共に寺社建築が素晴らしいね。法隆寺が好きだな。薬師寺や東大寺の正倉院にも興味がある」
「わあ!詳しいですねぇ。私、普段もこんな話ばっかりだから友達に彼氏できないよって言われました。」
「僕は聞いてて楽しいけど。好きな人は?」
露骨かな…と思いつつ、尋ねる。駅はすぐそこだ。
「いません…。うーん。付き合うって正直、よくわかりませんね。友達は彼氏いるのに烏丸さんに夢中だし…。」
奈都は、何の含みもなく日常の親友達の会話を思い出して、話した。
五良は、自分の名前が突然出てきてドキッとした。〈とりあえず、とぼけてみるかな…〉
「ああ、そういえばいるね。そんなヤツ。」
「はい。何だかすごい人のようですね。学力テストとスポ検どちらも常にトップでしょう。何だか同じ高校生とは思えませんよね。カッコいいって友達は騒いでますけど…。」
心臓がえぐられるようだ…五良はそう、感じた。
「…ハッ。気持ち悪いヤツだよな。機械みたいに優秀なだけで、人間味がない…。」
本当に気味の悪い存在…。自分自身、そう思えてしまう。
「確かに、あれだけ優れた人が何を考えてるかわかりませんけど」
…奈都は、ふと五良を見つめる。
五良はここから立ち去ってしまいたかった。
「……でも、それは私達の勝手な想像なんですよね。周りの大きな期待に疲れていて…、本人は何かに悩んでいるかもしれない。話せば面白い人かもしれない…。」
「……!!」
五良は何も話さなかった。
「って関係無い人の話ばかりでしたね。じゃあ、ここで!助かりました。ありがとうございました。」
「いや…」
ペコっと奈都は頭をさげ、駅の雑踏に紛れて行く…。
「…っあ!お名前、聞いてませんでした。」
「ロウ…。ゴロウです。」
五良は悲しげに笑った。
「ゴローさんですか!じゃあまた!」
奈都は立ち去る。
それを無言で見送る五良。
ツウッ、と涙が一筋だけ頬を伝った…。
「泣いているのか、僕は…」
…周囲は、五良の心憂しを無視して、常に期待をしている。弱音など吐くわけがないと、いつも過大評価し続ける。
―悩んでいるかも、しれない―
見ず知らずなのに、彼女はそう思ってくれた。
〈年下の女の子にそう言われて嬉しいのか…、情けないのか…〉
五良は苦笑する。自分自身どうして泣いたのか判らない。でも。涙が流れた。
…烏丸と名乗れなかったな…。その後の彼女の反応が怖い。
この気持ちをなんと呼んだらいいのか…。
まだ、五良は胸の中の感情を理解していなかった。
「会長!生徒総会いつにしましょう。学年主任は、明日の午後から、一斉風紀検査を抜き打ちですると言っておりますが…。」
ある放課後五良は、生徒会の副会長山吹秋良〈ヤマブキアキラ〉と共に移動中だ。
「その時間帯に総会を当てると通達しておいてくれ。形式だけの検査など、時間の無駄だ。然るべき検査はこちらで指示する。」
教師受けも良い五良だが、つまらない校長の話を省いたり、風紀検査を生徒会主体でやるなど、生徒受けも非常に良ろしかった。
五良はパリッと視点を学校の日常生活に切り替えていた。
流石にあれから直ぐ、泣いた不覚さや(誰にも見られていなかったが)、自分の不埒さなどを思い出して自己嫌悪もしたが…
「奈都!こっち。」
ドッキーン。五良の心臓がバチで鳴らされる。
ち…ら。生徒談話室の方を流し見る。
「は〜い。緑里ちゃんカフェオレでいい?」
「ありがと。それより奈都、今から塾でしょ?帰りし気いつけなよ〜。あの辺、北高の悪いヤツラの溜り場近いからね!」
「うん。ありがと!でも大丈夫だよう。そんなに遅くならないと思うし。」
「…い長!会長、あの?」
ハッ!我に還る。
「すまない。それから総会で来週の新入生歓迎式典の概要も発表するからその資料もよろしく。」