冷たい情愛9 過去-4
神崎先生…
私が入学し、山本先生が就職したその年、彼も始めてこの学校に着任した。
彼は、当時22歳。
本当は院に進みたかった(と、後から本人に聞いた)らしいが…
事情があり仕事に就いたらしい。
「そうですね…」
私は…そう答えるしか出来なかった。
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山本も神崎も、生徒から慕われる教師だった。
勉学だけでなく、社会情勢、経済、人生哲学、更には恋愛経験まで生徒に語り…
男女共に好かれる教員たちだった。
成績だけは良かったが…田舎で育った何も知らない私が…
そんな二人を尊敬するのに時間はかからなかった。
女子だからと言って…女らしさを強制することのなかった彼ら。
「人間生きるためには、学ぶことが必要なんだ」
彼らの口癖だった。
私は、英語の山本…数学の神崎…その二人の個別指導をよく受けていた。
熱血と笑顔が似合う山本とは逆に、神崎は普段は物静かな男だった。
そんな神崎を、私は好きになっていった。
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いつもの通り、数学の研究室に行き…
指導を受けている時だった。
「先生は、結婚しないんですか?」
「設楽…なんだいきなり?」
静かに笑って、低い声で神崎は言った。
「…彼女いるって、噂で聞いたから…」
「まあなあ…いるにはいるが…大人にはいろいろあるんだ」
にこやかな笑顔で彼は言った…
つもりだろうが
私には、その目が語る一抹の寂しさが分かったような気がした。
そして、彼にそんな目をさせる彼女が…
私には酷く憎く感じられた。
彼の指導を受け続け、私の成績はどんどん伸び…私は更に勉学に励んだ。