冷たい情愛9 過去-3
「設楽、久しぶりだな」
振り返るとそこには…
かつて、私を可愛がってくれた山本先生がいた。
「先生…びっくりしました…ご無沙汰しております」
「いや〜、変わってないな君は。今日はどうした?お前、高校受験するようなでかい子どもがいるのか??」
「いる訳ないじゃないですか」
「そりゃそうだな」
先生は笑ってそう言った。
先生は、この説明会の主要担当ではないらしく、私の探索に付き合ってくれると言う。
校舎はそう様変わりしていなかったが、部活動のための合宿所が新しく建設されていた。
中庭を歩く。
山本先生…私が入学した時、彼も新卒で教員採用された。
院卒なので、当時24〜25歳。私たち新入生より9歳年上の若い教員だった。
ということは、現在は40前後…結婚し、子どもが二人いるという。
熱血漢に溢れた彼は、熱心に生徒の指導にあたっていた。
「君のことは、よく覚えているよ」
私は、この学校では特別出来が良いほうだった訳ではない。
中学では敵無しだった成績でも、この学校にはそんなレベルがゴロゴロいたからだ。
この学校に入学し、鼻をへし折られる生徒はたくさんいたが…
私は逆に、自分より先を行く同級たちを尊敬し、自分も追いつきたいと必死になれた。
そんな私を、山本先生は酷く可愛がってくれた。
放課後、各教科ごとの研究室を回り、放課後の指導を自ら受けていた私。
英語教員だった山本先生は、私の偏差値を一番上げてくれた功労者だ。
「神崎も、お前の事は可愛がってたなあ…」
私は心臓が止まりそうだった。
私と山本先生との会話…いずれは出てくると予想はついていたが…
久しぶりにその名前を聞くと動揺せずにはいられなかった。