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あの桜の木
【大人 恋愛小説】

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あの桜の木-1

この桜の木のもとへ来たのは、5年ぶりだった。

恋、をしていたあの頃。
一方的に散った恋。
ほんの、数ヶ月だった。
小さな恋だったのかも知れない。彼について、知らないことの方が多かった。
でも、あの頃のあたしにはそれがすべてだった。


学校の裏門を抜けて、暫く歩いたところにある桜並木。
それを抜けると大きな垂れ桜のある公園がある。
そこが、あたしと彼の思い出の場所だった。


桜の木に、近付く。

5年前の今日、彼はいなくなった。あれから大学に入って何回か恋をしたし、就職もして、少しだけ、世間の醜さを知った。



ずっと、この場所に来るのが、怖かった。
此処に来れば、彼はもういないという現実を認めればならない。


桜の木を、撫でる。
そこには、あの頃と替わらぬ文字が彫ってある。

相合い傘で、遊華と和樹。
あたしと、彼の名。

木を撫でながら、あたし、結婚することになったよ。と呟く。会社の同僚で、笑顔が素敵なひと。優しくて、子供が好きなんだって。

少しだけ、笑った顔が、あなたに似てるよ。
会いにくるの、遅くなってごめんね。幸せになるね。



桜が、舞う。
それは、見事な桜吹雪で、まるで彼が祝福してくれているようだった。


あたしは、顔に笑みを浮かべながら公園をでる。

後で桜の木を売っている花屋を探して、花束を作ってもらおう。
それを持って、未来の旦那様と彼の眠っている場所へ行こう。

そして、このお腹に宿る2つの新しい命の名を、さくらと、涼華にしよう。


さくらは、彼と。
涼華は、もうすぐなる、私の旦那様と。

どちらの男性も私にとって、かげがえのない、大切な人なのだから。


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