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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-3--3

 十五分ほど交通ルールを無視して(信号無視速度オーバー酒気帯び運転などなど)社長の自宅に向かい、リビングに入った途端、火口は絶叫を上げることになる。
「社長、それはあらへん……」
 社長が訝しむ。慈愛がぽかんとしているのが見えるが、この衝撃的事実には関係がない。
「それはあらへんで」
「ひーくん、どうしたの?」
「いやだからメグちゃん、ひーくんやのうて火口さんって呼んでな。じゃなくて! 社長!」
 声を荒げるが、この社長はビビることもなく平然と悠然と構えていた。子供が見たら下手したら泣き出すような火口の顔で声を荒げられたら、大抵の人は顔を強張らせるのだが。この社長ほど脅し甲斐のない人物を火口は他にしらないが、今はどうでもいい。
「社長、嘘ついたらあかんで!!」
「嘘?」
「あかんよ! こいつ!!」
 ソファに転がっているムカつくほどのハンサム面を指差して、
「こいつ男やん!!」
 社長が珍しくポカンと呆気にとられた顔をした。寧ろ反応は慈愛のほうが早かった。
「男じゃ駄目なの?」
「あかんよ! 俺社長から若い女教師が倒れちゃったのって言われて、めっちゃ急いで来たんやで!! 分かる、この期待感!!?」
「……私女の人だなんていった覚えはないけど」
 顎に人差し指を当て、少し小首を傾げ考え込むが、すぐに思い当たったようだった。
「この人、葉月真司先生。葉月って苗字なのよ……考えて損した」
「いや損したやないですよ! 葉月なんて苗字、あるわけないやん」
「んー、でも実際葉月先生はここにいますからねぇ」
「慈愛、真面目に答えなくていいわ。自分の勘違いをどうにか転嫁したいだけだから」
「点火? ロウソクここにはないよぉ」
「いや点火じゃなくて転嫁。責任転嫁って言うやろ?」
「ああそうですねぇ。すごいですね、お母さんも難しい言葉知ってるけど、すぐにソレを分かるひーくんもすごいですねぇ」
「そやからひーくん言うのやめてって…」
 脱力した。この親子はあらゆる方向から火口の精神力及び体力を奪う。息をそっと吐いた。
「ま、ええわ」
 この眠りの王子をどうするか、今はそれが問題だ。
「木下先生のとこに連れて行こうかと思うんだけど」
「あかんって社長。こんなんでいちいち病院なんか連れとったら」
「で、でもぉ」
「ええってええって。メグちゃん、俺が一気に目覚めさせたるから」
「……ちょっと待って」
「どうやってぇ?」
 親子がそれぞれ疑問を投げかけるが、火口は気にせずに、
「起きんかコラぁぁぁああああ!!!??」
 バチバチバチバチ!!!!と往復ビンタ。親子が絶句してる気配が伝わるが、無視。
「あ、ちょっと、ひーくん……」
「火口、あなた」
 社長はこめかみを押さえたいと言う欲求ありありの顔、慈愛はほとんど涙目になっている。
「う、うぅん……」
 そんな空気も読まず、眠りの王子は眠りから覚めようとしていた。
「お、起きたか」
 火口は一応大丈夫か、と声をかけようとして顔を覗き込んだ。だからこの教師が目覚めて一番に目に飛び込んできたのは、火口のヤクザのような強面の顔ということになる。
「…………っ!!?―――」
「いや待てお前!!? なんでそこで気絶すんねん!!」
 最近の若いやつには、本当に根性がないと思う。


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