Authorization Lover-VOLUME3--1
「何読んでんの?」
ふと振り返ると七緒が後ろで微笑んでいた。雛菊は黙って本を閉じて渡す。
「ん〜雛菊が恋愛小説読むなんて珍しいわね。…諏訪駆聞いた事ないわね。」
「あら、結構有名なのよ。…で何?」
読書を邪魔されて不機嫌な顔をした。本の縁を摩りながら七緒はにっこり笑って腕時計を雛菊に見せる。
「今何時に見える?」
「にじさんじゅっぷん。」
「そうね〜よく読めました。じゃあ今は何の時間でしょうか?」
「…おしごとのじかんです。」
七緒は本を雛菊の頭に振り下ろした。雛菊はギャと潰れた猫のような声をだす。
「働け!!」
七緒の声が部屋に木霊した。
いつもの企画課の日常だ。
雛菊の席の隣の桃子は引きつって笑う。
「だ、大丈夫ですか?」
雛菊は大袈裟に頭を振り、ふらふらして見せる。
「ん〜痛くてもう無理…早退するわ。」
「…雛菊今度は会社四季報で試されたい?」
「さあって。キリキリ働きましょうか!」
背筋を伸ばしてデスクに向かった。七緒は本を静かに雛菊の机の上に置いた。その表情は怒っているというより意外にも、心配しているような顔付きだ。
「雛菊大丈夫なの?」
「頭は陥没してると思うわ。」
「そうじゃなくて。」
七緒は呆れたように雛菊を見る。
「なんか悩んでそうだなって思って」
「ん〜全然余裕よ?…あ、資料室に2004年度の資料取りに行かなきゃ…」
「あ、俺行きますよ?」
修平が話を聞いていたのか立ち上がる。
「いいわよ〜自分が悪いし。じゃあちょっと出てくるわ。」
雛菊は手をヒラヒラ振って席をたった。七緒は心配そうに雛菊の背中を見送った。