Authorization Lover-VOLUME3--2
「…ったく七緒は鋭いわねぇ。」
雛菊は歩きながら一人事を言った。
救いの手を伸ばすように柔和な口調を思い出す。
桃子から銀の事をきいてから雛菊は容易に不安定になった。
──銀が此方を見ていたというだけで胸が騒ぐ。
あぁ、未練たらしいったらありゃしない。
雛菊は苦笑いして、第二資料室へ向かった。部屋に入ろうとすると、声をかけられた。
「あ、雛菊さん」
名を呼ばれて振り返るとくたびれた感じの後輩の吉川和泉がいた。男性にしては、線が細く、いつも倒れそうな印象を受ける。
「あら、営業帰り?」
「わかります?」
吉川は苦笑いした。吉川はどちらかというと内向的な性格で、疲れているときは大体が営業回りの後だった。
「新人が入ったたので一緒に挨拶回りしたんですが…ぐったりですよ。そういえば企画にも新しい子入りましたよね?」
「あーらめざといのねぇ。ええ、入ったわよ。可愛い子が」
「…守川さん可愛いですよね。」
吉川はぼーっとした顔で話した。
「チェック済みかい。」
雛菊は呆れて吉川を見た。吉川は慌てて手を振って
「い、いえ!佐々木先輩が教えてくれて…それで…」
吉川は顔を真っ赤にして手を振っている。本当に分かりやすい奴だ。
「あ、もう失礼しますね!」
いたたまれなくなったのか吉川は立ち去ろうとした。それから何か気付いたのか、振り返って
「そうそう、第二資料室さっき誰か入ったみたいですよ。ドアが閉まるの見えたんで。」
「わかったわかった。じゃあまたね〜」
吉川は頭を下げて去っていった。
雛菊はドアノブを捻って部屋に入った。部屋は静まりかえっている。人の気配はない。
「なぁんだ、誰もいないじゃない。」
雛菊はひっそりと言って資料を探しに行った。
2004年度の経常利益は…
その欲しい資料は一番上にあった。…背の高い雛菊でも手が届かない。
雛菊は溜め息をついてから脚立を引きずりながら資料の本棚にセットした。
脚立に登り、資料を取りながらパラパラ捲った。
その時、影が動き雛菊はいきなり後ろに引っ張られた。
声を出す暇もなかった。
雛菊は簡単に誰かの胸に倒れていた。
はじめは呆然としてなにが起こったのかは分からなかった。
…でもすぐに腕の感触、胸で気付いた。私が間違える訳がない。