Authorization Lover-VOLUME2--1
一杯の珈琲が溜め息めいたものを生み出した。伸びのついでに大きな欠伸で顔の筋肉までも引き伸ばし、佐々木修平は作業を中断した。
時計を見ると、既に午後八時を回っていた。今頃彼女らは飲んで騒いでいるのだろう。今日は新人の歓迎会をやるという事で飲みに行こうと誘われたが修平は断って残りの仕事をすることにしたのだ。
急ぎの仕事ではなかったので明日でも良かったのだが、几帳面な彼は残業したのであった。
…─それに雛菊とは気まずい。
実は、最近修平は雛菊に交際を申し込んで断られたばかりだった。
そちらが本音かもしれない。
修平は自分に自信があった。仕事は出来るし、ルックスだって申し分がないはずだ。実際女に困った事がない。
雛菊とも仲が良く、馬があっていると感じていた。だから交際を申し込んだのだが──
あえなく玉砕した。
それはある飲み屋で仕事帰りに二人で飲んでいた時の事だ。
修平はかねてから聞きたい事を聞こうと思っていた。
「雛菊さんって恋人いないんですよね?」
「いないわよ〜」
雛菊は気だるそうにビールをすする。
「何、あの経理の彼女となんかあったわけ?」
雛菊は急に興味に惹かれたように尋ねる。
「とっくに別れてますよ」
修平は苦笑いした。雛菊はそれを聞いて、何故か傷付いた顔をして、ごめんと呟いた。
「いいですよ。どうせ振ったの俺の方だし。」
「あっそ。」
雛菊は興味を無くしたように前に向き直ってビールを口につけた。
「ねぇ、雛菊さん俺と付き合いませんか?」
「ぶはっ!」
雛菊は口に含んでいたビールを吐き出した。
「うっわ!汚いなぁ。ほらこれで拭いて。」
修平はおしぼりを雛菊に差し出す。無言でそれを受けとりながら、修平を睨んだ。
「なんの冗談?」
「冗談なんかじゃないですよ。」
修平は澄まして答える。
「俺と雛菊さんなら絶対合いますよ。保証します。」
「保証されても…」
雛菊は一遍に酔いが醒めたようで、シラケた顔で修平を見た。