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ライス・カレー
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ライス・カレー-1

朝、厨房に声が響き渡る。

「シュン!じゃがいもの下処理は終わったのか?」

シュンと呼ばれた青年は、遠慮がちに答える。

「いえ、いまからです」

「急げよ。昼に要るからな」

「ハイッ!」

シュンは大量のじゃがいもをテーブルに広げると、皮を剥いて一口大に刻み面取りをしていく。
その刻んだじゃがいもを、これまた直径1メートルはあろうかというボウルへ移していく。

川野駿。20歳。

父方の祖父母夫婦が昔、小さな食堂をやっていたり、母親も専業主婦だったので〈料理をする〉事が、いつも身近にあった。

そんな駿は子供の頃から料理をするのが大好きだった。

小中学校での駿は勉強は普通だったが、調理実習となると鮮やかな包丁さばきやフライパンさばきをクラス・メイトに披露して得意になっていた。

高校卒業後、彼は迷う事なくこの世界に飛び込んだ。親元を離れての一人暮らしを躊躇する事無く。
あれから2年、最初は皿洗いや掃除の雑用ばかりだった彼の仕事が、ようやく食材の下処理を任されるまでになった。

普通なら山盛りのじゃがいもの下処理など若い者は嫌がるものだが、駿は喜々としてこなしていく。
そんな姿から先輩達は稀に見る存在として、駿をかわいがってくれていた。




「お先に失礼しま〜す!」

厨房にハツラツとした声が響いた。早番だった駿は夕方に帰っていく。
先輩達は一応に「お疲れさん」と笑顔で言葉を返す。夕食時の緊迫した状況にも関わらず。

駿は事務所に寄ると、タイム・カードを打って、ホテルを後にした。




帰りのバスを待っていると、携帯が鳴り出した。駿はジーンズのポケットから携帯を取り出す。

「ハイッ、川野です」

「シュン!私よ」

電話は麗奈からだ。

大橋麗奈、19歳。

駿とは高校の同級生で、数ヶ月前、偶然この街で出逢ってから付き合いが始まった。
彼女も、郊外の大学に通いながらこの街で一人暮らしをしていた。

「シュン、仕事終わったんでしょう?」

「ああ、今から帰るところだけど…」

麗奈は声を弾ませて、

「今からさ、ウチに来ない?」

麗奈の言葉に、駿は胸が昂なった。付き合って3ヶ月、彼女のアパートに夜招かれるのは初めてだった。


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