ライス・カレー-7
「2〜3分経ったらもういらないんだ」
そう言うとガスを止めた。
「エッ?何故切るの」
「今からアクを取るのさ。ガスを止めた方が簡単なんだ」
駿は麗奈に〈やってみて〉とお玉を渡すと、鍋の中を指差した。
「ホラ、この濁った泡がアクなんだ」
「こっちに浮いてるのは?アクじゃないの」
麗奈が言ったのは飴色をした油だった。
「それは旨味油だよ。これを取っちゃうとコクが無くなっちゃうよ」
「はぁ〜っ…私、さっきのカレー、全部取っちゃった……」
鍋の真ん中に集まったアクをそっとお玉ですくっていく。3回もすくうとアクは無くなり、透明なスープになった。
「スッゴく簡単!さっきは何回とっても取りきれなかったのに」
「ここで再び火に掛けるんだ。15分も煮込めば、野菜も柔らかくなるから」
「じゃあお茶にしよ!コーヒー入れるから。インスタントだけど」
駿と麗奈はキッチンから部屋に移動して休憩した。
すでに時計の針は、午後8時を過ぎている。お互いに飲むのは砂糖抜きのミルク・コーヒー。
「シュン。今の仕事、楽しそうだね?」
麗奈の言葉に駿はコーヒーを一口すすり、苦笑いを浮かべると右手を彼女に向ける。
「楽しいだけじゃないけど……毎日、野菜の下処理をしていてね」
右手の親指にはタコができ、手首は少し腫れている。
「どうしたの?これ」
「腱鞘炎。毎日冷やしてるんだけどね。先輩は〈皆んなが通る道だ〉って言ってくれるけど……」
駿は左手で右手首を撫でながら続ける。
「でも、色んな料理。それも最高レベルの技量を目の辺りに出来るからやっぱり楽しいかな?」
珍しく本音を語った駿は、少し照れたようなに顔を赤らめる。
「君はどうなの?大学」
今度は麗奈の番だ。高校の時は漠然と〈教師になりたい〉と思って大学に入った。
それから2年経ち、駿と付き合って大いに刺激を受けていた。
漠然とだった目標が、確固たる物に変わりつつあった。