ライス・カレー-6
駿は玉ねぎを皿に移すと、
「さっきのカレー鍋をくれないか」
鍋をチェンジしてじゃがいもとにんじんを炒める。
「これは軽く炒めれば良いよ。じゃがいもが少し透けるくらいに」
数分後、じゃがいもの角が透けてきた。駿は予め炒めていた玉ねぎと中手羽をカレー鍋に一緒に入れると、ミネラル・ウォーターを注ぎ入れる。
「具材がヒタヒタ位に入れるんだ」
「何でミネラル・ウォーターなの?」
「水道水は殺菌のために塩素が入ってるんだ。それがジャマして苦味が出るんだ」
「あのカルキの匂いね」
「ああ、正確には次亜塩素酸ソーダ。キッチン・ハ〇ターと同じ成分だよ」
火を中火に加減して具材を煮ていく。
麗奈は炊飯器に無洗米を入れてご飯を炊こうとすると、
「アッ、これを一緒に入れてくれる?」
それは、お茶のパックだった。
「これを…入れるの?」
「5分くらいしたら取り出していいよ」
5分後。麗奈がお茶パックを取り出そうと炊飯器を開けると、
「何!これ」
麗奈が驚く。炊飯器の水が黄色く変わっていたのだ。
「サフランの色だよ。サフラン・ライスを炊こうと思って」
「サフラン・ライス?」
「チキン・カレーに合うんだ。普通に炊いて良いから」
麗奈は炊飯器のスイッチを入れる。
「糸は有る?」
「エッ?……有るけど」
料理と何の関係が有るのだろうと麗奈は思いつつ、部屋の小物入れから裁縫セットを持ってきた。
「沸騰しだしたら弱火に替えてくれる?」
駿は麗奈に火加減を任せると、買ってきたネギ数本を10センチ程度に切って、糸で束ねる。
鍋から湯気が立ち昇る。
「そろそろ弱火に替えて」
言われるまま麗奈は火加減を調節すると、駿は先ほど束ねたネギとチキン・コンソメの素を鍋に入れた。
「これは何なの?」
「臭み取りさ。ホテルじゃセロリやローリエなんか使うんだけど普通使わないだろ。だから普段、家に有る物で代用するんだ。
こっちはコンソメの素。ホテルじゃ本物を使うけど、そういう訳にもいかないからさ」
麗奈は感心しながら、
「ウチにはネギも無いけど……」
「今後も色んな料理の作り方を教えてあげるよ。
そうすれば冷蔵庫が食材でいっぱいになるよ」
「そうなるのも考えモノね……」
麗奈はそう言うと、いたずらっぽい顔で駿の顔を覗き込む。
駿も麗奈を見つめる眼が笑っている。
鍋の湯が泡立ち始める。駿はネギを取り出す。