ライス・カレー-5
「何故拭いてるの?」
「この水気が臭みの素なんだ。だからきれいに拭き取るのさ」
水気を取り除いた中手羽にコショウをまぶすと準備完了だ。
「じゃあ、今から調理に掛かるから…」
駿は麗奈にそう言うと、ガス・レンジに雪平鍋を乗せて火をつけた。
「本当はフライパンを空焼きするんだ。少し煙が立つまで……」
「フライパンなら有るわよ」
麗奈が手に取って渡そうとすると、
「それ…テフロン加工品だろ。テフロンは350℃以上になると有害ガスを出すんだ。味にも影響するしね。僕らは使わないんだ」
鍋にサラダ油を入れてスライスした生姜とニンニクを中火で炒めていく。
「香りが立ってきたら中手羽を炒める。少し焦げ目がつくまでね」
ニンニクと生姜、それに肉の焼ける匂いが混じり合って食欲をそそる。
駿は買ってきた小ビンの日本酒を振りかける。
〈じゅゅーーっ!〉と蒸発音がキッチンに響き、赤い炎が一瞬上がる。
「ここで十分アルコールを飛ばすんだ」
麗奈はしきりとメモをとる。
「お皿をくれないか?」
「これで良い?」
それは先ほど使ったカレー皿だった。一人暮らしのため、と言うより物を置きたがらない麗奈だからか、食器が極端に少ないのだ。
駿はカレー皿を受け取ると、鍋の中身をきれいに移す。
「別々に炒めるからね」
そう言って弱火にして玉ねぎを炒め始める。
「玉ねぎはじっくり炒めると甘味が増すんだ」
麗奈はメモをとりながら訊いた。
「どのくらい炒めるの?」
「ホテルじゃ1時間近く炒めてるけど、15分くらいで良いよ。ただし、ずっと混ぜ続けて」
「そんなに!…シュンも1時間炒めてるの?」
駿は麗奈の問いに笑顔をチラッと向けると手を動かしながら、
「いや……僕はまだだよ。結構火加減なんか難しいから。でも、早くやらせてくれないかなぁって思ってるけどね」
そう答える駿の眼は輝いていた。それを見た麗奈は柔和な顔で、そんな彼を傍らで眺める。
炒め始めて15分が過ぎた。白く、鍋いっぱいの量だった玉ねぎは、薄い飴色になって1/3ほどになってきた。