ライス・カレー-4
「だって、それは……」
駿が何かを言おうとしたが、麗奈はそれを遮ると、今度は悲しい表情で俯むいて、
「…ねぇ…どこが…間違いなの?」
駿は戸惑う。正直に言うか言うまいかと。
しかし、麗奈がそれを望んでいる。駿は意を決して語り出した。
「すべて違う。カレー粉と小麦粉の割合、火加減、具材の炒め加減、アクの取り方、バター・ライスの作り方……」
「そ、そんなに……」
麗奈は驚きの声を挙げる。料理番組のうる覚えで作ったとはいえ、すべて間違っていたとは。
くやしさよりも、自分のバカさ加減に呆れ返った麗奈は突然、声を挙げて笑い出す。
駿はその声に最初、躊躇したが、すぐに彼女と同じように笑顔になると、
「ねぇ、カレーの具材はまだ有る?」
言葉の意味が分からないのか、麗奈は訝ぶかし気な表情で〈野菜は有るけど〉と言うと、駿はにっこりと笑みを浮かべて、
「ねぇ、もう一度作ってみない?」
「えっ?」
「だからさ。僕が作り方を教えるからもう一度カレーを作ろうよ」
麗奈は口を結んで俯むき、少し考えるような仕草をした後、上目遣いに駿を見ると笑って、
「わかったわ!やろう」
「じゃあ、まずは買物だ!」
駿がそう言いながら立ち上がると、2人は買物へと出かけて行った。
麗奈のアパートから小気味良いリズムが辺りに漏れる。
駿が野菜の下ごしらえをしているのだ。
「へぇ〜っ、やっぱり上手だね」
買物から戻った2人は早速準備に取り掛かる。駿の包丁さばきを眺める麗奈は感心しきりだ。
「じゃがいもとにんじんは一口大に。玉ねぎはなるべく薄くスライスして多めに入れると美味しくなるよ」
「へえ、そうなの」
麗奈はそう言いながらメモをとっている。
駿は野菜の下ごしらえを終えると、鶏肉を取り出した。部位は中手羽。
それに塩をふっていく。
「ホテルのカレーとは違うわね」
「ホテルじゃむね肉やもも肉を使ってるんだ。あれは結構手間が掛かるからね。これは僕のオリジナルさ」
駿は中手羽に塩をまぶしながら答える。
しばらくすると、中手羽から水気が滲んでくる。駿はキッチン・ペーパーで丁寧に水気を拭き取っていく。