ライス・カレー-3
「どうする?もう、食べる」
座ってる駿を覗き込むように麗奈は訊いた。
「そうだね。食べようか」
「じゃあ用意するから!」
麗奈はそう言うと、踵を返して狭いキッチンへと向かって行った。
駿も立ち上がると〈何か手伝おうか?〉と訊くが麗奈は〈いいから座ってて〉と申し出を断わられる。
手持ちぶさたの駿は、テレビをつけて画面を眺める。
夕方とあって、どのチャンネルもニュースばかりだった。
「出来たよ〜っ!」
麗奈が皿に盛ったカレーをトレイに乗せて入って来た。
「たくさん有るからさ。おかわりしてね」
そう言って駿の前にカレーが置かれた。
(これ……)
駿は顔には出さなかったが、見た目と匂いの異様に気づいていた。
色の濃いカレー・ルゥに艶の有り過ぎるライス。匂いがなければ食品サンプルのように見える。
駿には麗奈がどういう調理をしたのか、おおよそ分かっていた。
「さ、食べよう!」
麗奈は冷水とコップと福神漬けをテーブルに並べると、〈いただきます!〉と言って食べ始めた。
駿もスプーンを持つと、麗奈に作り笑顔を浮かべてカレーを一口食べた。
焦げ臭さと酸化したバターの匂いが口に広がる。
(カレー粉と小麦粉を強火で炒めて焦げてる……それに、このご飯はバターと一緒に炊いたな……)
駿は二口、三口と無言で食べている。が、麗奈の方は一口目を口にいれたまま進まない。
突然、麗奈は黙々と食べている駿のカレー皿を取りあげた。
「何するんだよ?」
駿はそう言うと、麗奈の顔を見て驚いた。彼女の眼は充血して潤んでいたからだ。
「どうしたの?」
麗奈はカレーをキッチンのゴミ箱に捨てた。
「な、何をするんだ!」
駿は慌てて麗奈を止めようとする。しかし、麗奈は駿を見据えると震える唇で言った。
「…こんな…マズいカレー…よくだ、黙って喰ってたわね?」
「そ、それは……」
「あなたの勤めるホテルはカレーが名物じゃない!その味を知ってる人からすれば、こんなのマズくて食べれないでしょう!」
麗奈は感情を吐き出した。優しさも時にはアダになる。
駿の優しさが麗奈を傷つけたのだ。
駿の勤めるホテルは開業当時から変わらぬ味のチキン・カレーが有名で、いつも昼特になるとそれを求める客で行列が出来るほどだった。