ライス・カレー-2
「あの…いや、オレ止めとくよ」
「どうして?」
うわずった声で答える駿に対して、麗奈はおかしな事を言うなと訊き返した。
すると駿は少し興奮した声で、
「だって……オレ達まだそんな関係じゃないし…」
駿の勘違いに、麗奈は呆れたような声で、
「もう!何、訳分かんない事言ってるの。カレー作ったから一緒に食べようって言ってんの!」
「あっ?ああ、アハハハハッ!そ、そうだよなぁ」
駿は拍子抜けしたように笑うと、気を取り直して〈今から行くよ!〉と答える。
すると麗奈も嬉しそうに、
「初めて作ったの!それも本格的なヤツ。待ってるわ」
「エッ?」
駿が何かを訊こうとしたが、麗奈はすでに電話を切っていた。
電話をしばらく眺めながら、駿の心に一抹の不安がよぎる。
(初めて作ったのが本格的なカレーって……大丈夫かな?)
そう思っているところへ、バスが近寄って来る。駿は不安を抱えたまま、バスに乗り込むと麗奈の待つアパートを目指した。
30分後。駿はアパートの前に居た。4階建てのクリーム色の建物。築15年以上は経過しているだろうか。外壁にはヒビを補修した跡が見うけられ、塗装も色褪せている。
ここの3階に麗奈は住んでいた。
駿は立ちっぱなしの疲れた足で階段を登り、麗奈の部屋のドアー・フォンを押した。
部屋内からの〈は〜い!〉という元気な声と共にドアーが開け放たれた。
「おかえり!あがって」
笑顔で駿を出迎える麗奈。
部屋に寄るの4回目だが、いつもは昼間だからか〈いらっしゃい〉と言うのに、仕事帰りの夕方のためか〈おかえり〉とは。
新鮮な響きに、駿は照れくさい気持ちで麗奈の部屋に入った。
途端にカレーの香りが駿の鼻孔を刺激する。
8畳くらいの1フロア。リビング兼ダイニング兼寝室の部屋は、相変わらずの殺風景。
大きめのロー・ボード・テーブルに小さなテレビ。幅の狭い本棚に、マガジン・ラック。あとは床に転がるクッションが幾つか。
とても女の子の部屋とは思えない。
一度、彼女と雑貨屋に行った時、可愛らしい間接照明をプレゼントしようとしたが、〈ガラじゃないから〉と断られたのだ。
この時、彼女が買ったのは小学校に有るようなブリキのバケツだった。