月の満ち欠け-2
瞬は、いつから崇が好きなのだろうか。
瞬は、誰かに打ち明けられずに、いつから苦しんできたのだろうか。
瞬は―。
動悸がして、体の末端から血の気が引いていくのが感じられた。
指先がピリピリと痺れた。
本当の気持ちを打ち明けられたら、どんなに生き易いのだろう。
いっそ全てを打ち明けて、全てを失ってしまいたい。
何度もそうしたいと思った。
だけど、そんな事が出来る程、私はもう若くはなかった。
結局私は自分が一番可愛いんだ。
崇を手放したくない。だけど瞬も手に入れたい。
歳を重ねると、守るものが多すぎて、不可能な夢を見てしまう。
不可能だとわかっているから変化を恐れて、結局同じ場所をくるくると回るしかないのだ。
瞬も多分、不可能な夢を見て、その夢があるから生きていられるのかもしれない―。
私はそんな風に自分に言い聞かせていた。
月明かりに照らされた、瞬の奇麗すぎる横顔を見ていると、理性が吹っ飛びそうだった。
まるで思春期の男の子みたい。
もし、瞬にキスをしたら、瞬は私をどう思うかな―。
瞬にキスをしたい。
寝ている崇を見つめている瞬にキスがしたい。
「…玲?どうしたの?」
「……ううん、月が綺麗だなって。」
「本当だね。」
瞬の横顔が今度は月に向けられた。
私はそっと瞬の隣から立ち上がり、伸びている瞬の影の中に入るように立つ。そして目を閉じて、自分で自分を抱き締めてみた。
月明かりに映し出された、瞬の影に包まれている自分を感じたかったから。
「玲、何してるの?」
「月に、チカラをもらってるんだよ。」
「玲って、変わってる。」
瞬はまた優しく私に微笑んだ。
私もそれに微笑み返した。
私は最低な人間かもしれない。
死んだら神様には会えないかもしれない。
だけど私は幸せだと思う。
私の隣には瞬が居て、崇がいる。
影の中で、閉じていた瞳を開いてみると、崇と瞬が静かに微笑んでいた。
終わり。